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おかえり、三菱一号館美術館。「再開館記念 『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」へ。December 10, 2024

ロートレック ソフィ・カル 三菱一号館美術館

丸の内でひと際目を引く、赤煉瓦の建築で。

好きな美術館がたくさんあります。

企画展の内容はもちろんですが、個人的に「この美術館いいなぁ」と感じるのはロケーションや建築、展示空間の作りに魅力があるところ。東京・丸の内にある「三菱一号館美術館」はまさにそうで、東京駅すぐ近くのオフィス街にありながら周囲を緑に囲まれ、クラシックな赤煉瓦の建物が目に飛び込んでくるだけでワクワクする、お気に入りの場所です。

1年半ほど設備メンテナンスを目的として休館となっていたのですが、11月23日に待望の再開館。早速いってきました。

リスタートは、トゥールーズ=ロートレックと、初の現存作家となるソフィ・カルと。

訪れたのは冬晴れの気持ちのいい日、久々に目の当たりにした赤煉瓦の建築にテンションが高まります。何度訪れても「東京駅の現代的なビル群の中にこんな建築あってすごいなぁ」と思うのですが、実はこの建物は、元々は1894年にイギリス人建築家のジョサイア・コンドルの設計で建てられた丸の内初のオフィスビル「三菱一号館」を復元したもの。開館は2010年です。

リニューアルオープンを飾るのは「再開館記念 『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」展。三菱一号館美術館のコレクションの中核を成すロートレックと、2024年の世界文化賞を受賞した現代アーティスト、ソフィ・カルの作品とで構成される、“一粒で二度おいしい”展示です。同館が現存作家を招聘するのは初めてということもあり、特にソフィ・カルの展示を楽しみにしていました。

ロートレック ソフィ・カル 三菱一号館美術館
丸の内のビル群でひと際目を引く、赤煉瓦の外観。1階の『Café 1894』もリニューアル。
ロートレック ソフィ・カル 三菱一号館美術館
緑が美しい中庭に面した入口へ。巨大な展覧会ビジュアルが出迎えてくれます。

展示を楽しむ前に、リニューアルしてどこが変わったの?も気になるポイントでしたが、聞いたところ「展示空間の汎用性を高めることを目的として、すべての展示壁が乳白色に変更」「壁にあわせて一部絨毯も変更」「照明をすべてLED化」「すべての空調機の入れ替え」などの変更が行われたとのこと。これまで以上に、幅広い年代の様々な作品に対応できるようなリニューアルの内容、次回以降の展示もますます楽しみに。ちなみに、来年は夭逝の画家オーブリー・ビアズリーを取り上げる「異端の奇才――ビアズリー」展や、オランジュリー美術館とオルセー美術館が企画した「ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠」展などが予定されているそう。

ロートレック ソフィ・カル 三菱一号館美術館 展示風景より。LEDの柔らかな光が作品を際立たせ、以前より一層作品が見やすくなった印象。
展示風景より。LEDの柔らかな光が作品を際立たせ、以前より一層作品が見やすくなった印象。
ロートレック ソフィ・カル 三菱一号館美術館
訪れる度に感じる廊下や階段へ差し込む光が美しさも、この場所が好きな理由のひとつ。

肝心の展示は、前半がロートレック、後半がソフィ・カルとなっており、2人の作家の個展を順に楽しむような構成になっています。

ロートレックは、20代で初めて手がけたポスターで成功を収めたものの商業美術分野での評価が先行して、没後もなかなか油彩作品が受けいれられなかったことで知られる作家です。言うならば、美術史におけるロートレックの「不在」の期間。そこに目を向けて、同館が所蔵する多数のロートレックのポスターや、フランス国立図書館から借りた11点の版画作品を加えた全136点の圧巻の作品数で見せる今回の展示は、不在の対極にあるロートレックの存在を強く印象付けるものでした。個人的には、色鮮やかな作品で知られる彼の、単色の試し刷りのポスターが多数見られたのがとても良かった。

3階から2階へと降りてソフィ・カルの展示空間へ。長年に渡って「喪失」や「不在」をテーマにしてきた作家で、今回の「不在」というテーマも彼女が提案したものだそう。なんといっても注目は、「三菱一号館美術館」を代表するオディロン・ルドンの《グラン・ブーケ(大きな花束)》からインスピレーションを受けたという作品《グラン・ブーケ》。2019年に同館を訪れた彼女がルドンの作品が展示されていなかった=不在に着想を得て制作したものだという。実は2020年に同館で開催された「1894 Visionsルドン、ロートレック」でもソフィ・カルの来日が予定されていたもののコロナ禍によって実現せず、4年越しに実現した本展示。本邦初公開となる作品の迫力のすごさに、しばらく足を止めて見入ってしまいました。

ほかにも、建築家フランク・ゲーリーから贈られた多数の花束をモティーフにした《フランク・ゲーリーの花束の思い出》や、映像作品《海を見る》など、ソフィ・カルの多様な表現領域に触れられる、見応え十分の展示です。

*ソフィ・カルの展示室でも一部撮影可能なものがありましたが、掲載に制約があったためこの記事では紹介していません。ぜひ会場で。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 《ディヴァン・ジャポネ》。撮影可能エリアの展示風景より。<br />
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 《ディヴァン・ジャポネ》。撮影可能エリアの展示風景より。

 トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル。時代も作風も異なる2人のアーティストを「不在」という主題をテーマとして一堂に見せる、とても意欲的な展示。三菱一号館美術館の再開館へ向けた想いが強く伝わってくる鑑賞体験でした。もう一度ゆっくり見に行きたい。

「再開館記念 『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」は、2025年1月26日まで。

ミュージアムショップ「Store 1894」も刷新。

 というわけで毎回楽しみにしているミュージアムショップへ。ロートレックの展覧会図録とソフィ・カルの作品集、フランス人のブリジットと日本人のタナカによるコンセプト・ストア『BRIGITTE TANAKA』とコラボレーションしたポーチ、展覧会グッズで販売されていたら取り敢えず買ってしまうマグネット(キッチンに山ほど貼ってるんです)、寒くなってきたので生姜ほうじ茶などをゲット。やっぱりこれも美術館を訪れる楽しみですね。

展覧会図録『「不在」トゥールーズ=ロートレック』は、小林エリカさんが書き下ろした2つの短編が読めるのもうれしい。ソフィ・カル初の作品集『不在』は、	おおうちおさむさんのアートディレクションが素晴らしいです。
展覧会図録『「不在」トゥールーズ=ロートレック』は、小林エリカさんが書き下ろした2つの短編が読めるのもうれしい。ソフィ・カル初の作品集『不在』は、 おおうちおさむさんのアートディレクションが素晴らしいです。
こちらが『ブリジット・タナカ』とコラボレーションしたポーチ。“不在”を表現した透け感のあるボディに、ソフィ・カルの言葉が刺繍されています。
こちらが『ブリジット・タナカ』とコラボレーションしたポーチ。“不在”を表現した透け感のあるボディに、ソフィ・カルの言葉が刺繍されています。
アートマグネット (左) は、部屋のコレクションの一角に。ロートレック作品がインパクト大の生姜ほうじ茶 (右) 、いまの時期にぴったりです。
アートマグネット(左)は、部屋のコレクションの一角に。ロートレック作品がインパクト大の生姜ほうじ茶(右)、いまの時期にぴったりです。

Information再開館記念「不在」―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル

会期:2024年11月23日(土)~ 2025年1月26日(日)
会場:三菱一号館美術館
開館時間:10:00 ~18:00 金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は20時まで
休館日 : 月曜日、 年末年始(12/31と1/1) ※ただし、12/30,1/13,1.20は開館
入館料 : 一般¥2,300、大学生¥1,300、高校生¥1,000

公式サイト


Editor 利根 正彦

『&Premium』には2013年の創刊から在籍している最古参編集者で、現在はデジタル担当。岐阜県出身の中日ドラゴンズファン。片耳だけ立っているのがチャームポイントで早起きが苦手な犬と一緒に暮らしています。最近読んで面白かった本は高円寺の『蟹ブックス』で手に取った一冊、河野真太郎著『ぼっちのままで居場所を見つける ――孤独許容社会へ』(ちくまプリマー新書)。

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