&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。
服作りの先にあった、フランスでのワインと人との繋がり。 写真と文:宇多悠也 (〈ウティ〉デザイナー) #4May 30, 2025
フランスに通ううちに、次第にナチュラルワインや、それに合う料理、お皿やカトラリーに惹かれていった。
そして自分の収集癖に火がついてしまい、年々コレクションが増えていっている。
自分の性格上、好みや思考に偏りがあるのでその集まり方にもどうして表れてしまう。
お皿やカトラリーのほとんどはフランスのアンティークで、同じ年代の物が多い。同じ形でも、珍しいリムのデザインで好みのものを見つけると、反射的に迎え入れてしまう。
大好きなワインの生産者が刃物の名産地・オーヴェルニュ出身ということもあり、特注でエンブレム入りにしてもらったナイフや、友人のワイナリーにあるワイン樽から作られたナイフもある。いずれも、僕にとって大切なコレクションだ。

ワインは、よりその偏りが大きい。
2008年からフランス各地を車で巡り、服作りの生産背景となる工場を探しながら、様々な地域でクラフトマンたちと仕事をしてきた。
最初はブルゴーニュの工場から始まり、ロワールやサントル地域、バスクやミディピレネーなど、色んな地域に仕事のパートナーができていった。
そんななかで、地域ごとにいつしか毎回立ち寄るお気に入りのビストロやワインバーも増え、年に数回通ううちにお店の人とも仲良くなり、閉店後も一緒に飲むような関係に。
様々な地域に友人ができることで、街との距離もより近く感じられる。

「自分の興味のある地域で仕事ができたら良いな」と思い、リサーチを重ねて、その土地で服作りのパートナーたちを探した時期もあった。
気がつけば、大好きなワインの産地でも仕事ができるようになり、いつか会ってみたいと思っていたヴィニュロン(ワインの生産者)のもとを訪れるようになる。
回を重ねるうちに、彼らとの距離は縮まり、ワインと食卓を囲みながらお互いの仕事や人生観の話を語り合う機会が増えた。
いつの間にか、晩ごはんをご馳走になったり、泊めてもらうことも増え、僕にとってとても大切な時間を過ごすようになっていた。
彼らと僕の仕事は違う分野だが、ものづくりに対するフィロソフィーには共通するものがあると思う。それを感じた時は、お互い共感して盛り上がり、刺激できる良い友人になれると感じている。
そして徐々に、葡萄の収穫時期に彼らのヴァンダンジュ(ワイン用の葡萄の収穫)のお手伝いをする機会が増えてきた。


コロナ前は、ジュラ地方に住む、見た目と違ってシャイで物静かな作り手、エチエンヌ・チボーと。
オーベルニュ地方では友人のヴァンソンマリーやマッティア カルファーニャと。
ここ2年は、ジュラ地方で一番好きな作り手であり、これまで何度も訪れていた、アデリーヌ・ウイヨンとルノー・ブリュイエールの収穫を手伝い、皆でテーブルを囲んだりと、良い体験をさせてもらっている。


まだ外が暗いうちに集合し、朝焼けを見ながら収穫を始めるあの時間が、とても好きだ。
そして仕事が終えた後に皆で食卓を囲み、たわいもない会話から真面目な会話をする時間が毎日の楽しみでもある。
昨年は、収穫の最終日に開かれたソワレで、22〜23人分の食事を担当することに。
改めて、料理人のすごさを実感した。大変だったが、世界各国から集まった収穫仲間や地元の皆にも喜んでもらえて、本当に嬉しい気持ちになった。

ヴィニュロンたちと共に過ごす時間は、お金では計ることができない“幸せのあり方”を体感させてくれる。
身体は作業で疲れるけれど、色々なことを感じられ、エナジーをもらえる。そんな美しい時間を、今年もオーヴェルニュ地方とジュラ地方で過ごしたいと思っている。
世界中どこにいても、友人たちとテーブルを囲み、ワインを酌み交わす時間こそが、僕にとっては一番刺激のある大切な時間なのかもしれない。
来年こそは、大好きな街のワインサロンで、何かおもしろい取り組みができるのではないかと思っている。

edit : Sayuri Otobe
〈ウティ〉デザイナー 宇多悠也
