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『TRAVIS』の一歩目は、『ナイト・オン・ザ・プラネット』から。写真と文:ハラダ ユウキ (『TRAVIS』店主) #3July 21, 2025

『TRAVIS』をオープンしたのは2023年3月。春先の開店なのに、最初の買い付けが1月だったこともあって店に並ぶ古着はアウターが多め。春に向かう時季に冬物ばかりが並ぶという、ちょっと変わったスタートでした。

それでも、オープンから4か月ほどで『POPEYE』の映画特集に掲載していただくこととなり、発売前に再び渡欧して買い付けていた夏物はあっという間に完売。服を扱う店で時季に見合った服がないのはさすがに困るなと。それで「オリジナルのTシャツをつくろう」と動き出したのが、今やうち店の主軸となる映画Tシャツ制作の始まりです。

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最初のモチーフに選んだのはジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991年)。

『TRAVIS』は映画や音楽をテーマにした店ですが、そのような店でありがちな「この映画、観てないの?」「これは知ってないとダメでしょ」みたいな上から目線の空気にはしたくなかったんです。その点、『ナイト・オン・ザ・プラネット』は5話構成のオムニバス形式で1話あたり30分程度なので毎晩1話ずつ気軽に観られるのがいい。あの『ストレンジャー・シングス』(2016年)シリーズのママ役の俳優も出演していると伝えるとみんな驚いてくれる。

ミニシアター系にハマり始めた人や、これから映画を好きになっていく人が、その序盤に自然と出合う映画のひとつがジム・ジャームッシュの作品だと思うんです。映画通の年配の方も彼の作品は好きですしね。

そんな映画の1話目、ロサンゼルス編に登場するウィノナ・ライダー演じるコーキーが着ているTシャツがこのオリジナル1作目。

彼女が着ているのはアメリカの音楽レーベル『コロムビア・レコード』のレコード柄Tシャツ。ただ、何度も再生・一時停止したって画像が荒くて文字も小さすぎて内容が判読できない……。だったらいっそ 「コーキーとジーナ・ローランズ演じるヴィクトリアが架空の音楽レーベルからレコードを出したなら?」という設定にしてしまおうと。

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そのレーベル名は『パリ、テキサス』(1984年)の主人公・トラヴィスにちなんで店舗ロゴにも使用している「TRAVIS,YEBISU」。曲目A面にはふたりの出会いのセリフ、B面には別れのセリフを曲名に。

文字の配置や行数、すべて劇中と同じに揃えながら、コーキーが運転しているタクシーのナンバーや車種、道順や運賃、劇中の細かなセリフもデザインに落とし込んでいます。主題歌タイトルの一部分を“World”から“Cinema”に置き換え、古き良き映画館へみんなが戻る/通い続けることを願ったりも。

長袖ver.にはコーキーのダイスのタトゥーを同じく右腕にプリントを追加。襟裏のタグ代わりのプリントにも”カチンコ”を配して、ここにもある主張を。

一見するとレコードTシャツ、でも実は映画Tシャツ。そしてレコード部分のカスレは個体差が出ていて全て1点物。映画好き・音楽好き・古着好き、どこからでも楽しめる1枚です。「映画って、もっと気軽に楽しんでいいんだ」って、このTシャツが誰かの映画を愛し始めるきっかけになってくれれば嬉しいです。


『TRAVIS』店主 ハラダ ユウキ

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国内デザイナーズブランド勤務など経て、2023年に東京・恵比寿に"映画と服"の店『TRAVIS(トラヴィス)』をオープン。「映画館に着ていくための服」をコンセプトに、ヨーロッパの映画館を巡りながら選んできた古着を軸に、映画の中のあの娘が着ている服をオリジナルアイテムで製作。ロンドンの映画ブランドのアイテムや、映画をモチーフにしたサングラスなどもセレクトしている。

instagram.com/travis_yebisu

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