&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。

あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4February 26, 2025

あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4

山について話をしていると、ひとりで登るのかと聞かれることがよくあります。そんなときは、ひとりで登ることも稀にあるけれど、基本は友人と一緒に登ることのほうが多いです、と答えています。人の少ない山域では何かあったときのことが心配ですし、あとは単純に友人と登るほうが楽しいので、そうしています。ただ、山が好きな人なら誰でも良いわけではなく、山の楽しみ方が似ている人でないと、同行するのは難しいのですが。

あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4

つい先日、蓼科のほうにある八子ヶ峰という山に、ふたりの友人と一緒に登ってきました。

彼女たちとは同い年で、山行歴も同じくらい。山や自然から着想を得た制作活動をしているという共通点があって、いつしか山行を共にするようになり、ここ数年は年に1度くらいの頻度で泊まりがけの山旅をしています。険しい山はひととおり登ってきたので、最近は気軽な山を歩きたい気分。少し贅沢な温泉宿に泊まり、美味しい食事を囲みながらとりとめもない話をして、翌日は日帰りできる近くの山に登って帰るというのが私たちの定番です。

あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4
あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4
あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4

夏のあいだは山も宿も混み合うことが多いので、計画を立てるのは決まって、秋の終わりから冬にかけて。白い息を吐きつつ、まっさらな深雪を踏みしめ、誰も居ない静かな山を歩く時間は、このうえなく幸せです。ときには天候が悪くて山頂まで辿りつけないこともありますが、誰も悔しがることはなく、「こんな日もあるよね」と軽やかに下山を決められるのも、自分なりの山の楽しみ方を知っている3人だからこそなのだと思います。

あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4
あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4

一緒に登るといっても、山の中でずっと会話をしているわけではなく、付かず離れずの距離感で、それぞれのペースで歩いていきます。私は写真を撮るので、いつも最後尾。撮影に集中しすぎて遅れてしまったときも、彼女たちは早く早くと急かすことはもちろんなく、ほどよくお互いを見つけやすい場所で待っていてくれます。気にかけつつも、適度に放っておいてくれる。そんな関係性ができている友人との山の時間は、とても心地が良いものです。

あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4
あたたかでやわらかな山旅。 連載コラム : 鈴木優香 #4

山を下りた後には、地元のスーパーに立ち寄って、その土地の乳製品やジャム、調味料などをカゴいっぱいに買って帰路に着きます。翌日からはそれらを少しずつ開封して味わいながら、日常に漂う山の余韻をしばし楽しむのです。

最近は海外の山など、緊張を伴う場所に行く機会も多くなってきました。新しい世界との出合いによってもたらされる高揚感は、制作活動をしていくうえで必要不可欠です。その一方で、どんなときも変わらないという安心感も、同様になくてはならないもの。心身を癒してくれる温泉のような、あたたかでやわらかな3人の山旅は、私にとってのまさにそれなのでした。

※写真は文中に出てくる八子ヶ峰ではなく、過去に霧ヶ峰と鷲ヶ峰ヒュッテで撮影したものです。

edit : Sayuri Otobe


山岳収集家 鈴木優香

東京藝術大学大学院修了後、アウトドアメーカーのデザイナーを経て独立。現在はライフワークとして国内外の山を巡りながら、写真やデザイン、執筆などを通して表現活動を続けている。山で見た景色をハンカチに仕立ててゆくプロジェクト「MOUNTAIN COLLECTOR」(2016〜)、写真展「旅の結晶」(2023/gallery nagu 、2024/GALLERY CLASKA)

instagram.com/mountaincollector

Pick Up 注目の記事

Latest Issue 最新号

Latest Issuepremium No. 136台湾でしたいこと。2025.02.20 — 980円