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有機的な楕円が心地よく、使い勝手の良いまな板。写真と文:辰野しずか (クリエイティブディレクター、デザイナー) #2March 13, 2026

まな板は、いつか本当にしっくりくるものに出合えたら迎えようと思っていました。それまでは手頃なものを使いながら、「まだこれではない」と感じていました。出合いは2年前。久しぶりに再会した〈さしものかぐたかはし〉の家具職人・高橋雄二さんの広島のアトリエで、このまな板を見た瞬間に、いままでの迷いが消えました。

まるでも四角でもない、有機的な楕円。台所に置いたときの圧迫感が少なく、視界にもやわらかく収まります。長い食材を端から端まで切れる大きさは安心感がありますが、日常の調理ではそこまでの面積を必要としないことも多くあります。このサイズは、うちの台所にはちょうどよかったのです。

手仕事で削り出された、やわらかな輪郭のまな板。
手仕事で削り出された、やわらかな輪郭のまな板。

特に惹かれたのは、側面がほんのりと膨らむように手作業で削られているディテールでした。単に直線で落とされていないため、道具でありながら、どこかオブジェのような佇まいを持っています。素材はイチョウで、刃あたりがやわらかく、包丁を受け止める感触にも安心感があります。

側面には、削り跡がやさしく残る。
側面には、削り跡がやさしく残る。

高橋さんは木と深く向き合いながら制作を続けています。届いた木材は、アトリエの倉庫へ一枚ずつ自分の手で運び入れるのだそうです。その重さや香りを確かめるように、材ごとに向き合う。その姿勢を知ると、このまな板に触れる時間もまた少し違って感じられます。大切に作られたものを、こちらも大切に使いたいと思うのです。

このまな板は、まだ限られた場所での展開ですが、あまりに気に入って、友人への贈り物に選び、自宅と事務所用にも迎えました。良さを話している横で耳を傾けていた友人まで手に入れてしまうほど。少しずつ、私のまわりに広がっています。


クリエイティブディレクター、デザイナー 辰野しずか

辰野しずか
たつの・しずか/〈Shizuka Tatsuno Studio〉代表。ロンドンのキングストン大学プロダクト&家具科を卒業後、2011年に独立。物事に潜む可能性を見つけ出し、昇華して可視化することを強みとし、実用的な道具から情緒的なオブジェまで領域を横断しながら制作を行う。造形の美しさにとどまらず、ブランドの核となるコンセプト設計や商品企画にも関わり、「ものづくりの軸」を定めた上で表現を組み立てている。プロダクトデザインを中心に、クリエイティブディレクション、展示空間の構成、アート制作へと活動を展開している。

shizukatatsuno.com

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