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日々、粒々。 連載コラム : 田中せり #4February 28, 2025

日々、粒々。 &EYES連載コラム :グラフィックデザイナー 田中せり #4

 これまでコラムに添えてきたグラフィックは、「日々 粒々」というプライベートワークで続けている制作手法によるもので、ささやかに繰り返す日々の営みを、粒の集合体でトレース・再構築する試みである。写真に写る人物の輪郭を粒の線でなぞることで、人の存在や行為を抽象化させたそれらの像は、鑑賞者の頭の中で粒と粒の間が補完され、新たな像としてぼんやりと立ち上がる。

 グラフィックに使用した写真は、旅行中の友人家族、薪を割る友人、猫を抱く友人、犬とダンスをする友人、井戸端会議の友人、オンラインMTG越しの友人と私、ボタンを縫う私、グラスで乾杯する母、指輪をした祖母の手元、夫の七五三の家族写真、幼少期の姉と私と妹など……私が日常や旅先で撮影した、あるいは撮影してもらった、ごくプライベートな写真ばかり。赤の他人にとっては、特別美しいわけでも、技術的に上手いわけでもないかもしれないが、私にとってはひとつひとつ思い出すエピソードがあり、関係性の深い瞬間が写されている。それらの写真の正体を知っているのは私だけであり、肖像権が守られるぎりぎりのバランスで覆い隠すようにグラフィックへ落とし込む作業は、どこかスリリングでもある。

 グラフィックに扱う線一本にも、理由を考えてしまい、自由奔放に線を描けるタイプではないからこそ辿り着いた、手がかり。写真の中に写る誰かの輪郭は、私が実際に見た必然的な線や形であって、そこに写る色は、私が好んで身につけていた服で必然的な色だったりする。こうして、過去に何気なく撮影した写真に導かれるように、必然的な線や形、色を拾い上げ、編集やコラージュをするようにグラフィックを構成するようになった。身の回りの人物や個人的な出来事を題材にした写真作品を「私写真」と呼ぶのであれば、グラフィックデザインの場合は「私グラフィックデザイン」とも言えるのだろうか? 今現在の私にしっくりくるこの制作方法を、しばらく続けてみようと思う。

edit : Sayuri Otobe


グラフィックデザイナー 田中せり

1987年茨城県生まれ。企業のロゴ開発をはじめ、美術や音楽領域のグラフィックデザインやブランドのアートディレクションに携わる。主な仕事に、日本酒せんきん、小海町高原美術館、本屋青旗、AMBIENT KYOTOなどのロゴデザイン。森美術館「アナザーエナジー展」の宣伝美術。蓮沼執太『unpeople』のアートワーク。羊文学のデザインなど。また、写真の偶発的な現象を扱ったパーソナルワークの発表も行う。

instagram.com/seri_tanaka

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