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日々、カーテンの隙間で。 連載コラム : 田中せり #3February 17, 2025

日々、写真で。 連載コラム : 田中せり #3

 自然が生み出す現象や、線、形、色に惹かれる。自分が作り得ない、偶発的で予測不可能な形や色の組み合わせは、斬新でありながらも普遍的で、流行など無関係で、自由奔放だ。日々、線、形、色と睨めっこしているデザイナーの私からすると、その姿は羨ましくもある。そんな現象に遭遇すると、自然が描いたグラフィックを頂戴するような気持ちで、スマホに撮り収めている。

 つい撮ってしまう現象のひとつに、カーテンがある。旅先のホテルの部屋に到着すると、必ず窓の遮光カーテンを確認する。プリーツ式で、尚且つカーテンの裾と床の間にわずかな隙間があれば、内心小さく喜び、翌朝を楽しみに眠りにつく。そして朝が来ると、暗闇の中で、遮光カーテンと床の隙間から生まれたうねうねと柔らかい、発光する曲線をカメラに収めるのだ。発光した線の太さ色は、その日の天候によって変わり、空の色や窓の外の木々の緑の反射、カーテンの模様や床の絨毯の色の影響をうけて、青白く見えたり、赤く見えたりもする。硬い生地なら鋭角なギザギザの線が現れ、柔らかなドレープのある生地なら緩やかな曲線が描かれる。太陽とカーテンが描いたドローイングとも言えるその光の曲線を、ありがたく頂戴し、かれこれ8年ほど「カーテン」というフォルダに収集している。

 カーテンの他にも、日常の中で偶発的に生まれる現象を写真に収め、私のカメラロールに蓄積されていった。そして時折、それらの写真がパーソナルワークのグラフィックデザインの要素として、日の目を見ることがある。デザインソフトのIllustratorで線の色を塗りつぶすように、私は写真を使って線を塗りつぶす。数値で指定された無機質なベタ塗りではなく、写真の中に存在する色が想定外に現れ、偶発的な模様が浮かび上がるのだ。自分の意図やコントロールから解放され、予想外のアウトプットに私自身が驚きたくて、私はここ数年、“自然”と共にコラボレーションするようにグラフィックデザインを制作している。

日々、写真で。 連載コラム : 田中せり #3

edit : Sayuri Otobe


グラフィックデザイナー 田中せり

1987年茨城県生まれ。企業のロゴ開発をはじめ、美術や音楽領域のグラフィックデザインやブランドのアートディレクションに携わる。主な仕事に、日本酒せんきん、小海町高原美術館、本屋青旗、AMBIENT KYOTOなどのロゴデザイン。森美術館「アナザーエナジー展」の宣伝美術。蓮沼執太『unpeople』のアートワーク。羊文学のデザインなど。また、写真の偶発的な現象を扱ったパーソナルワークの発表も行う。

instagram.com/seri_tanaka

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