&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。
一人から、二人、三人へ。家族と選んだ、移住生活。写真と文:柴田奈穂子 (『tohe』店主) #4July 24, 2025
黒姫での生活も3年目に入り、結婚をし、広島に住んでいた夫が越してきてくれることになった。
彼はもともと木こりだったこともあり、野山で生き抜く術を持っていて、庭の草刈りから木の伐採、除雪作業まで、外での力仕事のほとんどを担ってくれるようになった。私は庭の草刈りをしていた際に、2日連続で蜂に刺されるという痛い経験をしていたので本当に助かっている。畑仕事と家事が私の主な役割となった。
一人暮らしの気楽さはもちろんあったけれど、暮らしの中に助け合える人が居る、というのはこんなにも心強く安心感を与えてくれるものなんだ、と一緒に生活をするようになり実感した。
自然が豊かだからこそ、日常の中に当たり前にある草刈りや除雪作業。薪ストーブのある生活を望むなら、そこに薪割りも。男性に比べて力も体力もない女性である自分が、雪国で一人暮らしをするには知識と覚悟が不十分だったのかもしれない。
だが自然の中に身を置いたことで、新しい扉をたくさん開くことができた。
移住前には食べる機会がほとんどなかった山菜や野草を身近で手に入れ食卓に並べられるようになったり、図鑑や双眼鏡を片手に野鳥を観察し、少しずつ名前を覚えて呼べるようになったり、庭に積み上がった雪の山をスキー板を履いて滑ってみたり……。野良猫のようにいたるところでひなたぼっこをしているきつねを見つけるのもささやかな楽しみだったりする。
東京に住み続けていては知ることができなかった様々な経験と出合い、美しい景色に触れ、毎日を楽しくたくましく生きている。
これまでの話は、この地ではごくごく普通の暮らしの中にあるひとコマかもしれないけれど、未だ特別感のある暮らしを送っているように感じる。
思い切って移住して良かったのではないかと、6年間を振り返っている。
昨年の3月には長女が生まれた。
子どもには「禾野(かの)」と名付けた。
いくつかの想いがあり命名したものだが、そのひとつに、「禾」は穀物という意味を持っていて、彼女の故郷となる黒姫の風景、野山に広がる田んぼを想わせるようなそんな意味合いも込めた。
田畑や野山を駆けまわり、朗らかに育ってもらいたい。
『tohe』店主 柴田 奈穂子
