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「似合う」より、「欲しい」で選んだ服の話。写真と文:ひらいめぐみ (作家、ライター) #2June 13, 2025

「欲しい」と思った服と出合うと、一瞬「服は着るもの」という常識がふーっとどこかへ行ってしまう。

「BOOKWORM(本の虫)」の文字とともに、積まれた本の刺繍が施されたスウェットは、下高井戸の古着屋『Shelly’s』で購入したもの。

「似合う」より、「欲しい」で選んだ服の話。写真と文:ひらいめぐみ (作家、ライター) #2

ボディの色はめったに着ない淡い薄ピンクで、最初にSNSで見かけた時は(ピンクかあ、似合わないかもなあ……)と思いながら眺めていた。

以前、仕事で診断士さんにパーソナルカラー診断をしてもらう機会があった。結果は自己診断通り、「イエベ秋」だった。イエベ秋は、黄みがかった色や、深みのある色が得意とされている。春のはじまりのような、淡く優しいピンク色は、たしかに秋の自然界にはあまり見られない。

セオリー的にはたぶん似合わないのだろう。だけど、このピンクに赤の刺繍という配色、本をモチーフにしたデザインのスウェットを、どうにかして着たい、と思った。私はお店のDMに連絡をして購入させてもらい、後日店頭まで受け取りに行った。お店でも試着せず、そのまま持って帰った。

帰宅後、厚みのあるスウェットをかぽりと被り、リビングにある姿見の前に立つ。最後にピンク色の服を着たのがいつだったか思い出せないくらいずっと前で、「全然似合わなかったらどうしよう」「結局着なかったらもったいないな」と内心思っていた。けれど意外にも、鏡に映る自分の姿には違和感がなかった。

「欲しい」から生じる強い力が、「似合う」を引き付けてくれたのかもしれない。

「パーソナルカラーだけが似合う色じゃない」ということと同じく、「服は(買ったらすぐ)着るもの」という常識も、ほんとうは疑ってみてもいいのかもな、と最近は考えている。

積読していた本をある日開いてみたら、その時、自分が必要としていた言葉がのっていて、「今読むべき本だった」と驚くことがあるように、買った後ですぐ着る機会がない服も、いつかの自分が着こなすかもしれない。持っているだけで、日々が守られているような、お守り的存在の服があるかもしれない。

最近はできるだけ、「着回しのしやすさ」や「似合うかどうか」を天秤にかけず、直感で「欲しい」と思ったら買うようにしている。

実用性を超えて手に入れた服は、理由なんてなくたって愛おしい。


作家、ライター ひらいめぐみ

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1992年生まれ。7歳の頃からたまご(の上についている)シールを集めている。著作に『転職ばっかりうまくなる』、『ひらめちゃん』(いずれも百万年書房)など。

hiramelonpan.com

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