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台湾旅行での、台湾茶の様々な楽しみ方。写真と文:リン・ピンチュン (台湾茶/台湾料理研究家) #2November 11, 2025

台北で台湾茶を楽しむなら、まず思い浮かべるのは、茶芸館で味わうアフタヌーンティーでしょう。落ち着いた空間で美しい茶器に囲まれ、丁寧に淹れられた台湾茶を味わうひとときは、旅の楽しみのひとつです。

ガイドブックなどでも多く紹介されていますが、今回はもう少しディープに。産地に足を運んで、台湾茶を“現地で”体験する楽しみ方を紹介します。

「茶畑を見に行きたいけれど、山奥でアクセスが大変では?」とよく聞かれます。確かに、高山茶の産地となる標高1,000m以上の地域は、山道を車で何時間も登らなければ辿り着けません。しかし、実は台湾の首都・台北のすぐ近くにも、魅力的なお茶の産地が数多くあります。そもそも台北という都市自体が、お茶とともに発展してきた町なのです。

小さな村々に点在していた茶農家が集まり、茶の取引や輸出が盛んになり、台北は大都市へと成長しました。つまり、台北は「お茶が育てた都市」と言っても過言ではありません。その茶貿易の拠点となったのは、淡水河沿いの大稲埕(ダーダオツェン)エリア。現在も老舗の茶商や茶芸館が並び、往時の面影を今に伝えています。

台湾旅行にて、台湾茶の様々な楽しみ方。写真と文:リン・ピンチュン (台湾茶/台湾料理研究家) #2
台湾旅行にて、台湾茶の様々な楽しみ方。写真と文:リン・ピンチュン (台湾茶/台湾料理研究家) #2
台湾旅行にて、台湾茶の様々な楽しみ方。写真と文:リン・ピンチュン (台湾茶/台湾料理研究家) #2

かつての茶工場『新芳春茶行(シンファンチュエンチャハン)』は、国の文化財として保存され、一般公開されています。炭火焙煎の設備や木製の茶葉選別機など、当時の茶産業を支えた職人たちの技術と息づかいを感じられる場所です。台北駅から徒歩圏内とアクセスも良く、観光の合間に立ち寄るのにもぴったり。お茶を飲むだけでなく、「お茶が台北を育てた歴史」を知りたい方におすすめです。


台北市にあるお茶の産地は、鉄観音茶で知られる猫空(マオコン)。地下鉄を降り、そこからロープウェイに乗ると、山の上に広がる茶畑と猫空の町並みが眼下に広がります。山頂には茶館が点在し、静かな自然と都会の眺望を同時に楽しむことができます。

台湾旅行にて、台湾茶の様々な楽しみ方。写真と文:リン・ピンチュン (台湾茶/台湾料理研究家) #2

猫空の『台北市鉄観音包種茶研究開発推進センター』では、台湾における鉄観音茶の製茶技術や淹れ方を紹介しており、地元の製茶師による試飲体験もできます。電気焙煎が主流となった今でも、炭火焙煎を守り続ける職人の手仕事は、まさに伝統の継承といえます。炭火でじっくり焙煎された鉄観音茶は、香ばしさの奥にやさしい甘みがあり、ひと口ごとに深い余韻が広がります。様々な品種や焙煎の度合いで仕上げられた鉄観音茶を飲み比べてみるのは、とても贅沢な体験です。


台北市の南西に位置する三峡(サンシャー)は、台湾緑茶の代表的産地。今では、蜜香紅茶や白茶の製茶にも力を入れています。在来種の茶葉を使い、ほんのりと柑橘の皮のような爽やかな香りが漂うのが味の特徴です。

台湾旅行にて、台湾茶の様々な楽しみ方。写真と文:リン・ピンチュン (台湾茶/台湾料理研究家) #2

老舗の茶舗が並ぶ三峡の町と大漢渓(ダーハンシー)に隣接する川を渡って、陶芸の町・鶯歌(イングー)へ。ここでは、名だたる作家の作品から日常使いができる器まで、多彩な陶磁器が並び、茶器好きにはたまらない場所。アンティークの急須や’20年代の湯呑みなど、ひとつひとつの出合いが旅の記憶を彩ります。

次の台湾旅行では、より深く、香り豊かな台湾茶を味わってみてください。


台湾茶/台湾料理研究家 リン・ピンチュン

リン・ピンチュン
台湾・宜蘭県生まれ。大阪大学外国語学部卒業後、大手旅行会社、レストランでの勤務を経て独立し、台湾にて『郷菜 ShiangTsai』を主宰。「台湾料理は小籠包だけじゃない、台湾茶は凍頂烏龍茶と高山茶だけじゃない」をモットーに、台湾の郷土料理を紹介するレッスンや台湾茶の製茶体験などの企画を通じて、英語と日本語で、台湾の食文化を海外に発信している。台湾国家試験の調理師及び製茶師の資格を持ち、農業部(日本の農水省に相当)による台湾茶コンテストの審査員課程を修めるほか、各産地の生産者への取材を重ねる。著書に、『台湾茶の教科書 現地のエキスパートが教える本場の知識』(グラフィック社)。

shiangtsai.com

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