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天候、流行、擬態、似合う。写真と文:長見佳祐 (ファッションデザイナー) #4December 26, 2025

連載最後となる今回は、4つのメモからなるオムニバスコラム。


①You Are the Weather

12月の韓国・ソウルは運良く本格的な寒波を迎える直前だったようで、街歩きにも良い気候だった。梨泰院(イテウォン)からほど近い位置にあるリウム美術館で、アメリカ人アーティストのロニ・ホーンのインスタレーション作品「You Are the Weather」を見た。

一人の女性を捉えた、100枚にわたるポートレートの連作。温泉に浸かった彼女の表情はどれも一見同じように思えるが、写真に近づいてみると、刻一刻と変化するアイスランドの自然光を受けて、内面の微細な移り変わりを確かに感じることができる。そこではもはや、彼女の感情と天候を厳密に線引きすることはできない。

天候、流行、擬態。写真と文:長見佳祐 (ファッションデザイナー) #4
photo : TOKI

②流行

冬のアウター。誰かと被るのは嫌だけど、今季のムードは共有したい。もしくは、あの人と同じものを身に着けたいというマインドは、よくファッションの差異化や共感の矛盾として語られる。

確かに、その時々の気分単位でみると相反する感情だけど、例えば庭師のように、ひとつの生態系の調和を手入れするようなレベルに立てば、目的は一致しているなと思う。腸内細菌が代謝を促すように、わたしたちはコミュニティの均衡を保持しようとする。もしくはコミュニティに駆り立てられて、「被りが嫌」とか「真似したい」と思わされているのかもしれない。

天候、流行、擬態。写真と文:長見佳祐 (ファッションデザイナー) #4
photo : Kenshu Shintsubo

③擬態

有毒で、羽の模様に特徴のある蝶Aがいる。Aは生存に有利なんだけど、それに便乗するような形で、Aに擬態する無毒な蝶Bが発生する。捕食者からしてみれば、「A、Bともに危険」となり、Bは毒を持たずして繁栄する。

Bが少数派のうちはそれで良いのだけど、一定の割合を超えると、捕食者が“食べられる模様”と認識し始め、擬態が破綻し、BだけならまだしもAまでとばっちりを食う。これを「ベイツ型擬態」と呼ぶらしい。

天候、流行、擬態。写真と文:長見佳祐 (ファッションデザイナー) #4
photo : Kenshu Shintsubo

④似合う

4つ続いた連載の最終回。明日が雪なら「無し」が「有り」になってしまう、気まぐれな「似合う」の性質について、その後いくらか煮たり転がしたりしてみたのだけど、無理に事例を増やしても、かえって思索のブレーキになると思ってやめた。またしばらくは、制作のなかでその断片を集めて、いつか続きが書けたら。


ファッションデザイナー 長見佳祐

長見佳祐
ながみ・けいすけ/1987年広島生まれ。〈HATRA〉デザイナー。衣服を、境界状況的な空間と捉えた「リミナル・ウェア」を提案する。3Dクロスシミュレーション、生成AIをはじめとするデジタル技術に基づく制作手法を確立し、様々なリアリティが溶け合う身体観をデザインする。近年は、渋谷慶一郎氏による『ANDOROID OPERA TOKYO』への衣装提供、石川県の金沢21世紀美術館「DXP2」展でのインスタレーションなど、その活動領域を拡げる。2025年の『TOKYO FASHION AWARD』を受賞。

x.com/hatrangam

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