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雲の上に浮かばずとも。兵庫・朝来市の『竹田城跡』と城下町。写真と文:仁科勝介 (写真家) #3September 17, 2025
城というものが人々に長く愛されていることは、当然のようであり、はたまた不思議なことのようにも感じます。ただ、いずれにせよ、過去の人々が城とともに激動の時代を駆け抜け、語りきれないひとつひとつの複雑妙な歴史を経たうえで、今の私たちの暮らしがある。そのことを思うと、城は語らずとも歴史を代弁してくれるような、象徴のひとつのように感じます。
私は城の専門家ではありませんし、日本100名城で訪れた場所は8〜9割ほどで、すべてを知っているわけではありません。ただ、城と城下町が多くの人々に愛されていたり、何より地元の人々がその土地を愛していることが感じられる場所では、私がそこで暮らしているわけではなくても、ある種の居心地のよさを覚えます。
訪れた回数の多い城のひとつに、兵庫・朝来市の『竹田城跡』があります。「雲の上に浮かぶ城」と呼ばれており、朝の冷え込みが厳しい季節に、城の周囲が雲海によって包まれる特別な風景は、人々の心を掴んで離しません。
私自身、その一面の雲海に出合ったことはありませんが、城跡に登った際の清々しさは、いつも心に残っています。そして精巧な石垣を近くでも遠くでも眺め、眼下には集落が広がり、遠方には見事な水田が並んでいるのです。
前回訪れた時には、城跡のみならず竹田駅周辺も散策し、その町並みが竹田という土地をより一層好きにさせるのでした。感覚的なことかもしれませんが、目に見えない統一された雰囲気を感じたのです。
地元の方々によって丁寧に掃除されている用水路や、塀の奥から聞こえてくる剪定の音。また、地元の方とすれ違った時に交わしてくださる、裏表のない明るい挨拶。
城から感じられた清々しさは、城下町の暮らしも含めた地域全体が内包しているものかもしれない、そう感じました。
私のようなひとりの観光客は、そうした雰囲気を壊してはいけません。そして、何かを知ったかぶることもできませんが、この土地に住む人々の暮らしにあらためて感動し、自分が別の土地で生活するにしても、何かヒントをもらえた気持ちがしました。雲の上に浮かぶ城に出合えずとも、あるものはずっとそこにあると。
地元の方々によって大切にされている土地というものは、私が知らないだけで、日本中にたくさんあるのだと思います。そして、知られることだけがすごいというわけでもまったくなく、今日も粛々と進んでいる何かが、きっとあるのだろうと想像してやみません。
edit:Sayuri Otobe
写真家 仁科 勝介
