&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。
陶芸と生活がそばにあること。小石原焼と備前焼。写真と文:仁科勝介 (写真家) #1September 03, 2025
私は「写真家」と名乗り始める前から日本を放浪し、全国各地の暮らしや歴史を旅先で学ぶ、フィールドワークのような日々を長く過ごしていました。
今回、「日本を旅するなかで見つけた心地よい場所」というテーマをいただき、頭に浮かんだもののひとつが、焼き物です。

日本の焼き物は、日常使いできることに重きを置いたものが多いです。趣向や練度が高められ、ひとつの器が高級品となったり、著名な陶芸家が輩出されたり、といった側面もありますが、まずは人々の生活とともにあり、その足元をやさしく照らす焼き物の存在感に惹かれます。
焼き物と土地の関わり合いや、風土が好きな場所として、福岡・東峰村の小石原と岡山・備前の伊部を紹介します。
小石原は小さな山村ですが、道の駅や『小石原焼伝統産業会館』で作品を見ていくうちに、どんどんと焼き物に惹かれていきました。
ある作品はかわいらしく、別の作品には侘び寂びが感じられ、ビビッドな色合いではなくとも、心にじんと届くようなやさしい色で焼かれたものが多く、さらに値段も手頃でした。
いまに続く小石原焼の歴史を辿ると、柳宗悦や棟方志功が訪れていたということも現地で知りました。そして、先人が築いたものを、細く長く守っている風土に、あらためて感動します。
岡山県の備前焼の中心地である、伊部という町もとても好きになりました。何より印象深かったのは、地元の子どもたちの姿が伸びやかだったこと。歩いている小学生と挨拶を交わしただけですが、とても快活で清々しく、ほかの土地にはない、子どもたちの純なものを感じられたのです。
それは、子どもたちだけによって培われるものではなく、町全体の風土も関わっていると思っています。つまり、大人も含めてつくりあげられた雰囲気だと。
窓越しにたくさんの備前焼が飾られた町並みを抜けて、地元の『天津神社』に立ち寄ると、狛犬や門の屋根、壁や床のタイルにも備前焼が使われていました。さらに、境内のあちこちには言葉が散りばめられていて、地域そのものが持つ雰囲気が好きになったのでした。
焼き物を外から見ると、商業や知名度といった視点を持ちやすいですが、焼き物が日常においての心の豊かさと繋がりがあると感じた時、私はその土地のことがずっと好きになるのでした。
たとえその町に住んでいなくとも、風土の意志を受け継いだ焼き物が、生活にふと溶け込んでいるのを見ると、豊かな日々へと導かれているような気がします。
edit:Sayuri Otobe