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趣味や習い事の話:「あやかりたい」。文:横尾香央留 (手芸家) #3May 20, 2025
バレエ教室と並行して水泳教室にも通い始めた。中学も高校も水泳の授業はなかったが、小学生の頃、水泳教室に通っていたこともあり、クロールなら延々と泳げる自信があった。
体験レッスンでスキルを問われ、「いやーもうずっと泳いでないのでー」とそこは謙虚に初級クラスでお願いしたが、「それだけ泳げるなら中級に」とか言われちゃう展開を一瞬でも想像した自分が恥ずかしい。なんせ12m手前で、溺れるように足がついてしまったのだ。
脳と身体が直結しない感覚に恐怖を覚え、これはまずいと真面目に通うことにした。
最初は週2で通いその後週1に、いろんな曜日の午前クラスと午後クラスを転々として、大学の非常勤講師を務めていた時代は、年に3ヶ月は休んだりしながらマイペースに続けること15年。初級中級と時間をかけて4泳法を身につけ、今は名ばかりだが上級クラスに在籍している。
なぜ水泳だけこんなにも続いているのかといったら、やはり“人”だと思う。
平日の日中ということもあり多くの方は母親世代、もしくはさらに上の世代(90代の方も)。
みなさんの健康的な姿にあやかってわたしも細く長く続けることを目標にしている。
1時間のレッスンの合間や更衣室で、普段なら決して話すことのない方々と他愛のない話を少しだけする。年齢も職業もほとんど聞かれたことはなく、ただ“プールで会う人”という関係性が心地良い。
基本的に名前を覚えられることは少なく、入会当初から40代後半に差し掛かった現在まで「お若いお方」と呼ばれることが多いが、最近メインで通っているクラスでは名前が浸透し始め、名前を覚えるのが苦手なわたしも上級中級合わせても8人ほどなので覚えることができた。
ここで先日、一瞬わたしがヒーローになった話をご披露したい。
レッスンを終えシャワーを済ませて更衣室に戻ると騒がしい。聞けば、Kさんが今日初めて装着するという補聴器をうっかり落としてしまい、本体は見つかったが電池がないという。
それぞれロッカーの下を覗くが見当たらず「いいわよいいいわよ、家に帰ればあるし本体は見つかったから」とKさんが言い、一同不完全燃焼ながら身支度を再開。
顔がカピカピで半裸状態だったわたしは、オールインワンジェルを素早く塗り、見られても大丈夫なくらいに服を着てから、iPhoneのライトでロッカーと床の隙間を照らす作戦に出る。
すると、グレーの凸凹した床の上にきらりと光る小石のような物体が! おおよそ電池とは思えないシルバーの粒を手のひらに乗せると更衣室が沸いた。
「さすが若者!」「携帯のライトは思いつかないわ〜」「よくやった!」。賞賛の声が寄せられる。「ヨシヨシ」と言って頭を撫でてもらったのはいつぶりだろうか。
こちらもいい気分で更衣室を後にしエントランスに向かうと、「電池見つけたよー横尾さんが!」「あらやだ見てたわよ、わたしも!」「クラスにひとり若者が必要ね〜」とまだ話題になっていて、こそばゆかった。
ちなみに頭を撫でてくれた70代のMさんは同じ年だという往年のアイドルの推し活に勤しんでおり、先日地方遠征に1人参戦した際予約していたホテルがラブホテルだったなど常に話題に事欠かない人物で、最近は泳ぐのと同じくらいお土産話を楽しみに通っている。
photo:Takashi Homma edit : Sayuri Otobe
手芸家 横尾香央留
