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趣味や習い事の話:「踊りたい」。文:横尾香央留 (手芸家) #2May 13, 2025
小学校6年間プラス1年ほどバレエを習っていた。バレエ少女の憧れといえばトゥシューズだが、わたしはそこで挫折した。
ずっとバレエシューズで踊っていられるのなら、こんなに楽しいことはなかったのに、大人になるということがひどく悲しいことに思えた。
身の程知らずな武道への挑戦を諦め、多彩なレッスンがあるジムに通うことにしたわたしは、ここでバレエとの再会を果たす。

平日の午前中15人ほどの初級クラスに参加してみると、身体は鈍っていたがなんとかついていくことができたのでそのまま数か月続けていたある日、古株と思しき方のお気に入りの場所をうっかり陣取ってしまったようで、本人やその友人から小言を言われた。
別にどこでも良かったのですぐさまその場を譲ったところ、「彼女が先に来てた! あなた後から来たでしょ? おかしいわよ!」と正義感の強い方が急に怒りだす。なんてこった。「いいんですいいんです! ほんとどこでもいいんです! すみません! ありがとうございます!」“わたしのためにケンカはやめて!”って人生で初めて使える瞬間では? と思いつつ無難な言葉を発するが、そもそもわたしへの同情ではなく、強い正義感が故の発言なので、こちらの声など届かない。
その日のレッスンは終始空気が張り詰めていて最悪だった。常連さんたちの仲をかき乱した新入りの居心地の悪さと、正直面倒くさという気持ちからバレエクラスへは足が遠のき、ピラティスに鞍替えをして数年後ジムを辞めた。
色々と忘れた頃にまたしても踊りたい欲が出てきて、恐れ多くも近所の超有名バレエダンサーが主催するスクールに通うことにした。もちろん身の程はわきまえているので入門クラスから。
柔軟性はかろうじてまだ残っていたが、驚くほどバランスが取れなくなっていた。
体の軸はブレブレで片足立ちもままならない。週1回のレッスンを2年ほど続けていたが、こんなにも上達しないものかと再び挫折。
子どもの頃は、楽しんで通っていたら自ずと技術や感覚が身についてどんどん自由になっていく、その感覚がうれしかった。
大人になったいま、同じような気持ちを味わうにはなかなかに時間を要する、そして難しい。
一昨年の年末に腹腔鏡手術を受けた後、傷をかばうような歩き方をしていたら様々なところに悪影響が出て、最終的に四十肩になった。
そのことをきっかけに通い出した整骨院で、「なんすかこの身体は......! ここを治してもあっもこっちも治すところが控えている......サグラダファミリアか!」と整骨院ギャグを飛ばされるほど崩れた身体が「スカイツリーみたいですね!」と言われるくらいに整ったら四度挑戦したいと思えるほど、いつも心の奥底で踊りたい欲はくすぶっている。
photo:Takashi Homma edit : Sayuri Otobe
手芸家 横尾香央留
