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トレイシー・ソーンから藤原ヒロシまで。夏にリピートしたくなる、私の愛聴曲。 写真と文:靱江千草 (〈バウト〉デザイナー) #3August 22, 2025
今回は、エヴリシング・バット・ザ・ガールの2曲や、この夏に何度もリピートしたスライ・ストーンなど、「Summer Of Nostalgia」に収録している全5曲を紹介します。

Summer Of Nostalgia💿
#10 Everything But The Girl 「Time After Time」
エヴリシング・バット・ザ・ガールのボーカル、トレイシー・ソーンの力強く伸びる美声がダントツに格好よくて素晴らしいと痛烈に感じたのが、この名の通りギターサウンドで聴けるコンピレーション・アルバム『Acoustic』。
そのアルバムに収録されている「Time After Time」はシンディ・ローパーの曲のカバー。名曲のカバーが多く展開されていますが、原曲よりも完全にトレイシー色に染まっていて、それがさらに良いのです。彼らのオリジナルの楽曲「Driving」 も、このアコースティック版のほうが一段と好き。とにかく全曲を通してトレイシーの歌声の魅力を存分に味わえる、私にとってのバイブル的な一枚です。
彼女の歌声は、憧れる女性像を声にしたらこんな感じ、という私のイメージそのもの。トレイシーが参加した、スタイル・カウンシルの「The Paris Match」も何億回リピートしたことか。
これらをリアルタイムで歌っていた時代に、生の歌声を一度でいいから聴いてみたかった。来年辺りに、エヴリシング・バット・ザ・ガールが復活するとかしないとか……。ラジオでどなたかが言っていました。当時のような強く伸びる声はもう望めないかもしれないけれど、もしも本当なら、この目で見たいトレイシー。
ベン・ワットのネオアコ名盤『North Marine Drive』も、渋谷系時代におしゃれなお店で必ずかかっていました。今聴くと一層ノスタルジックです。
#15 Everything But The Girl 「Night And Day」
驚くのは、これがデビュー作とは思えないほどの洒脱さがすでに備わっていること。ネオアコ時代を象徴する1982年の彼らのデビューシングルカット。ブリストルカルチャーのマッシヴ・アタックは冬になると聴きたくなりますが、ネオアコはどのシーズンも心にしっくりくる。なかでもこの曲は永遠。トレイシーの声は本当にどこまでもエフォートレスです。
#12 Yo La Tengo 「Green Arrow」
2018年の「朝霧JAM」では当時5歳の息子も一緒に。2023年11月の恵比寿ガーデンホールのライブで聴いた「Green Arrow」。ボーカルの入らないインスト曲ですが、虫の音をバックに夏の終わりを告げる雰囲気が漂います。大好きすぎて何千回も聴いたことか。この曲を、ライブで演奏してくれるとは涙もの。最小限の音だけで奏でられる芸術のようでいて、さらにCoziness。
いろいろな気持ちを呼び起こし、最後はほっとなる。夏から秋に聴きたくなるお気に入りの1曲です。もちろん他の曲も静かでロックでエキサイトですが、やはりライブで体感するとより好きになります。

#13 藤原ヒロシ 「Dawn」
この曲は、つい数年前にラジオで知りました。贔屓にしていただいているパタンナーの方に「これ、映画の曲ですね」と言われて調べてみると、映画ではなく1991年の深夜テレビドラマ「バナナチップス・ラヴ」の挿入歌でした。松雪泰子さんが主人公で、全編ニューヨークロケという遠い記憶にかじりついて観ていた学生時代。オープニングはオリラブ(オリジナル・ラブ)の「月の裏で会いましょう」。衣装は山本耀司さん。とにかくお洒落で、錚々たる布陣が作り上げたドラマです。
まさに今、自ブランドの〈バウト〉で、1990年代前半のファッションのリソースを、ジャケットなどの要素に取り込んでいるのですが、自分の時系列と照らし合わせてみると、わかってるようで実はわかっていない当時のこと。その時代のファッションの理解がまだまだ乏しいことに気づかされました。そして藤原ヒロシさんの、世界のファッションへの貢献には、尊敬と賞賛の念を抱かずにはいられません。
#16 Sly & The Family Stone 「Hot Fun In The Summertime」
2記事目で彼らへのリスペクトについてひとまず触れたうえで、最近改めてスライの曲を遡って聴いています。今なお初めて知る曲も多いのですが、こちらもそのひとつ。アルバムには収録されていないシングルカットだそうで、夏をテーマにした明るく、開放感のある曲で、とってもポジティブな気分になれます。この夏は何度もリピートしました。
昔の名盤をどこまでも深掘ることができるサブスクは、いつも新しい発見やお気に入りを手軽に探すことができる。それはそれで豊かなことですね。
〈バウト〉デザイナー 靱江 千草

→ bowte.jp