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自然と足が向かう先。『ISETAN HOME ESSENCE』バイヤー / HABICHT Inc. 代表・松岡歩#1March 03, 2025
正直、自分は「食」というものに興味が薄かった。
身体に優しいものを食べたほうがいいとは思いつつも、自分が食事に求めることは、いかに時間をかけず栄養補給を済ませられるかどうか。早く仕事や他のことに取り組みたい気持ちが大きく、とにかく効率性を重視してきた。
しかし休日くらい身体を労ったほうがいいのかもしれないと思い始めたのは、30歳を過ぎてから。年齢を重ねることを悲観的に捉えるタイプではないが、とにかく疲れが取れにくくなった。20代の頃、体調が傾きかけた時に起こっていた偏頭痛は、それまでよりも格段に起こる頻度が多くなっていた。振り返るとあの頃の自分の身体は悲鳴をあげていたのだと思う。「栄養バランスを考えた食事をしてくれ!」と。
そんな時に出合ったのが、東京・新代田の『and CURRY』。
新しく構えた事務所の近所にあり、友人に勧められたことがきっかけで、通い始めた。通う理由はいくつかある。
まずはお店の立地。
事務所からは歩いて7分ほど。歩くには遠すぎず近すぎない絶妙な距離にある。そしてお店の周りは、とにかく気がいい。和の要素を感じさせる建物、そよそよと揺れる竹とその隙間から届く暖かい日差し。とにかくロケーションの良さが抜群で、柔らかい感情で身体がいっぱいになる。
加えて2~3日のペースでメニューが変わること。
これには驚いた。お客さんを飽きさせないぞという並々ならぬ覚悟とカレーへの深い愛。そのストイックさと、店主の阿部由希奈さんが目指す「毎日食べられるお味噌汁のようなカレー」の虜になった。(ちなみにカレーにはたくさんの野菜が入っており、身体が待ってました!と喜んで栄養を吸収しているのが分かる。)
そして、店内の雰囲気。
一見さんも常連さんも肩肘張らずに落ち着ける心地いい雰囲気は、よりカレーをおいしく感じさせる秘密のように思う。誰でも、いつでもおいでと言わんばかりの優しい気持ちが店内に充満している。
「うちの娘は医者なんだけど、オンコールとかなんとかでまとまった休みがなくて大変そうなんだよ」「あとは自分の覚悟を決めるだけなんです、スリランカに行くかどうか」
お客さんが、思わず自分が抱える悩みとか相談ごとを共有したくなるその気持ち、なんだか分かる気がする。
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自由に使える時間もお金も有限だ。だからこそお互いへのリスペクトを前提に、その瞬間を心の底から心地いいと感じる消費をしたい。そんな私にとって行きつけのご飯屋さんがある生活は憧れで、店員さんが自分のことを覚えていてくれているんだと実感できる瞬間はとても嬉しい。
「いつもありがとうございます」
「平日いらっしゃるの珍しいですね、お休みですか?」
「またお待ちしています」
美味しくて、心地よくて、ポカポカする。
こんな気持ちにさせてくれるお店に出合えた自分は幸せ者だ。
edit : Sayuri Otobe
『ISETAN HOME ESSENCE』バイヤー / HABICHT Inc. 松岡歩
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