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幸せな鳥が暮らす町。編集後記「日本の美しい町を旅する」June 22, 2024

荒々しい岩場の広がる城ヶ島の海岸。ぽつぽつと写っている人の小ささから、その雄大さが伝わりますでしょうか。この岩場が、果てしなく感じられるほどに長く続いていました。
荒々しい岩場の広がる城ヶ島の海岸。ぽつぽつと写っている人の小ささから、その雄大さが伝わりますでしょうか。この岩場が、果てしなく感じられるほどに長く続いていました。

幸せな鳥が暮らす町。

 多忙を極めた5月。ゴールデンウィークなんぞ関係なく仕事、仕事の毎日で、ろくに妻と一緒に過ごせなかったので、この特集の校了後に2人で出かけることにしました。

 目的地は神奈川・三崎。三浦半島の先っぽに位置する港町です。なんとなく「海を眺められればオッケー」という気持ちで、ノープランで朝から出発。僕らの暮らす鎌倉からは車で1時間強ほどの道のりです。旅の計画は決めないわりに急ピッチで車内のプレイリストだけは組んだおかげで、気持ちよく高速を走って、あっという間に到着しました。

 雰囲気の良さそうな道を見つけては、あてもなく歩いての繰り返し。あちこちに猫がいる港町らしい風景にほっこりしたり、三崎港のすぐ先にある城ヶ島までの渡船に乗って、つかの間の港情緒を満喫したり。魚がおいしい土地に決まっているのに適当にタイ料理屋に入ってしまったのを後悔したかと思えば、プーパッポンカレーがとても好みの味で、そこを後にしてすぐに見つけたジェラートもさっぱりとした甘さでおいしくて。食べすぎだからもう少し散歩せなあかんな、ということでぶらぶら歩いていたら、少し先の丘に灯台を見つけました。

「灯台からは眺めがよさそうじゃない?」とテンションの上がる妻。その方向に小道が伸びていましたが、灯台に続いているのかは分かりません。それでも調べもせず、どんどん歩く妻を追いかけました。曲がりくねり、先の見えない道を10分ほど歩いた先にはあったのは、灯台ではなく海岸。急に現れたスケールの大きな岩場に感動し、しばし、ただ2人で眺めていました。時間は昼過ぎ頃でした。朝から沖に出ていたと思われる釣り船が次々と岩場に戻ってきて、釣果が良かったのか、ほころんだ顔で人々が降りてきます。妻が海岸を見ながら、眩しそうな顔で言いました。

「鎌倉と違って、海岸の空に鳥がいないね。ここなら安心してサンドイッチ食べられそう」

「わざわざ人が食べているものを狙わなくても、海に魚がたくさんいるから、お腹いっぱいなんじゃない」

「へえ、ここに暮らす鳥は幸せかもしれないね」

三崎への滞在時間はほんの3時間ほどだったと思います。小さな旅に大満足して、次はどこへ行こうかと話しながら、帰路につきました。

 今号は、国内旅の目的地が満載の一冊。札幌、山形、富山、松江、高松、奄美…etc。地元の人にとっても、自分の町を再発見できる充実の内容です。この特集とともに、夏の思い出を作りに出かけませんか。

(本誌編集部/松崎彬人)

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