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「小さな家」だからこそ、やりたいことが明確になる。編集後記「小さな家、小さな部屋」July 18, 2025

昨年から2度目の「小さな家」特集。私も小さな住まいの家主として、5年に及ぶ新築での家づくりの一端を、この編集後記に書きました。今回も特集を制作しながら、自分が家を建てた当時のことを振り返っていました。
当然ながら、予算と納期がある中でのプランづくりです。できる限りの時間を使って、ネジの一本まで頑張って選んだつもりですが、すべての建材を検討できるわけもなく。どこかで「ベストではなくてベターならOK」と進めていきました。これは後悔ではなく、自分で納得して割り切ったことなので、今も満足しています。(そして、すべてをベストまで突き詰めようと思ったら、どれだけ時間とお金があっても家は建たないのではないかと思います)
ただ「これだけはベストを尽くす」と決めていたのは「窓」です。特にダイニングの窓。小さな家ですから、書斎や趣味専用のスペースはありません。食事もデスクワークも、趣味の音楽を聴くのも、家族が集まり会話するのもダイニングになります。だから家の中で最も光が美しく入り、眺めのいい場所にダイニングを配置して、L字で木製の出窓にすると決めていました。柔らかな光を浴びながら朝食を摂り、シンボルツリーとその先の山々を美しい窓越しに眺める。そんな生活を超具体的にイメージしていました。
理想の窓は、既製品にはありません。我が家を担当してくれた家具職人の方にお願いして、オーダーメイドしてもらうことになりました。さり気なくも存在感のあるモールディングを作るために、刃物からオリジナルで発注して、文字通り世界に一つだけの窓が出来上がりました。壁と窓の塗装の色は同じ白ですが、モールディングの塗料に混ぜるオイルの割合を上げ、ほんの少し光るようにしました。
もちろん、この窓は“高い”です。作る費用も高かったですし、土地の開口部に木製窓を設置しているので、雨風に当たり痛みも早く、定期的に塗装のメンテナンスが必要です。掃除だってマメにしないといけません。
極端な話、この窓を作らなければ、もう一つ部屋や納戸を増やせたかもしれません。そこまでは言い過ぎだとしても、作り付けのソファの生地代の予算を、5分の1程度まで下げました。キッチンの作業台や収納の天板は一枚板を希望しましたが、集成材を採用しました。屋根はガルバリウムの波板一枚にし、軒裏は仕上げず下地を出しっぱなしに。他にも数えられないほどの減額調整をしました。選択と集中。日々の仕事でも必要なことですが、膨大な意思決定を必要とする家づくりでは、なおさら大切なのだと改めて認識したのでした。
今回の「小さな家」特集でも、狭くても自分らしい住まいのために、前向きに割り切った住まいがたくさん登場します。それぞれの家に詰まったアイデアは、家主が「どう暮らしたいだろう?」と考えた結果。優先順位の低いものはばっさりと諦め、デメリットをもメリットに変えるための工夫が凝らされています。そうして納得して住まう人々の顔が、幸せそうだったのは言うまでもありません。
(本誌編集部/松崎彬人)
