名著を読み解く、大人の読書感想文。
名著を読み解く、大人の読書感想文。課題図書/『友情』 文/外山惠理Book Review 5 / December 25, 2020
誰もが取り組んだ学校の宿題といえば読書感想文。様々な経験を積み重ねた大人が、改めて名著に対峙するとき、どんな感想を抱くのだろうか。教科書に掲載されるほどのタイトルを課題図書に、5人が新たな視点で自由に感想を綴った。
課題図書
『友情』
武者小路実篤 著 新潮文庫
脚本家の野島と新進作家の大宮は親友同士。ある日、野島が一目惚れをした杉子のことを、大宮に相談するが、避けがたい三角関係の道を辿ることに。若き日の恋愛と友情が複雑に交差する青春を描いた書。
文/外山惠理 Eri Toyama
TBSアナウンサー
1975年東京都生まれ。TBSラジオ番組『たまむすび』(月~金曜13:00~)で玉袋筋太郎とともに、金曜パーソナリティを務める。『爆笑問題の日曜サンデー』(日曜13:00~)では、5週目のアシスタントも担当。
今ならわかる「友情」
主人公の「野島」は友達の妹の「杉子」を好きになり、親友の「大宮」にそれを告白する。実は大宮も杉子のことを「いいな」と思っていたが、それを野島には言わない。なぜ大宮は「素敵な人だよね!」と言えなかったのか? でも、素直に言えない気持ちは私にもわかる。小学生のとき友達に「光GENJIで誰が好き? あたしはかーくんなんだけど」と言われて、私もかーくんが好きだったのに「あっくん」って答えたことがあったから。
新進作家の大宮は26歳で、脚本家の野島は23歳。互いに尊敬し合う関係だ。大宮は、16歳の杉子に一方的に思いを寄せる野島を励ましたり慰めたりすることが、とにかく上手。批評し合うこともあるらしいのだが、2人がケンカする場面はないので、大宮のほうが優しすぎる印象だ。野島は、杉子について話したいがために大宮の家に頻繁にやって来るのだが、大宮は野島の一喜一憂をじっくり聞いてあげる。
一方で野島は、杉子にたった2回会えなかっただけで、命にかかわる病気なのではないかと思ったり、杉子は自分のことを怒っているのかもしれない……と気にしたり、逆に杉子は自分のことを愛してくれているかも……と思ったり、「あんな女は豚にやっちまえ、僕に愛される価値のない奴だ」と考えたり、感情がコロコロと変わりすぎて、心配になる。
野島は、杉子とピンポンをするシーンで自分より上手な杉子に甘く見られるのが嫌で、杉子に質の悪い球を打ちこもうとしたり、杉子に会いたいあまり杉子の兄である友達を何度も訪ねたり。思い返せば、恋をしたときって、こんな感じになったっけ? 私のこれまでの体験で考えてみると、確かに男子のほうが繊細だったかもしれません
ね。
大宮は、あるとき、杉子の気持ちが自分にあることに気づき、野島の気持ちを考え、自分が日本から離れたほうがいいと西洋行きを決心する。
杉子は杉子で(大宮の代わりに)「妾ではお話相手になれなくって」とか「之からわからないことがあったら、色々教えて頂戴ね」なんて言うものだから、野島はますます杉子に惹かれていってしまう。自分のことを野島が好きなことには気づいているはずなのに、こんなこと言わないでしょう! こういう女子、嫌いです。絶対に友達にはなりたくない。男子に思わせぶりな態度をとる女子は、40過ぎても変わらないから。個人的な意見ですが。
小説の最後に大宮が、鼻血が出るほど悩み、怖がりながらも野島を突き放す。野島は、悲しすぎて、すぐにはとても大宮を許せないだろう。ただ、数年後には、大宮に感謝し、許せる人になっていてほしい。
初めて読んだときには、「素晴らしい友情かと思えば、親友の好きな人を横取りする話かい!」と思っていた。でも、違った。大宮の凄さが、今ならわかる。親友に優しい言葉をかけることは簡単だ。でも、本人のためになることであれば、怖くても本当のことを伝えなければいけないのだ。
illustration:Shapre edit : Seika Yajima
※『&Premium』No. 70 2019年10月号「あの人が、もう一度読みたい本」より