& Premium (アンド プレミアム)

Column

May 23, 2020 音楽家・青葉市子×写真家・小林光大が紡ぐ、旅と日々の記憶。Choe「生物発光」

クラシックギターを片手に国内外を旅する音楽家の青葉市子さん。各地でインスピレーションを汲み上げながら、日々、言葉と音楽を紡いでいます。その旅に同行し風景を切り取っているのが、写真家の小林光大さん。日々の生活に戻っても、互いの存在と作品は呼応し合い、ときには小林さんの写真を通して青葉さんが創作することも。

この連載では、旅と日常とまたぎながら2人が生み出したものを「Choe」と名付け、青葉さんのエッセイと音楽、小林さんの写真を交えながらお届けします。2人の旅と日々の記憶を、お楽しみください。

沖縄への旅から生まれたもの、最終回です。

 

生物発光

 

アダンが揺れている。

 

久高島
最北端のハビャーン岬まで自転車を走らせていると、クロアゲハが、まるで道案内でもするかのようにひらひらと前を飛び、自らと同じ色の影を白い道に映していた。俯くとうなじは瞬時に熱を帯び、二月とは思えない日差し、ガジュマルの大木で一休みする。火照った頬に手の甲を当て、天を仰ぐと葉の重なりから光がこぼれ、目が眩む。瞑った瞳に光脈が焼きついて、まるで繭につつまれたような静けさの中、こめかみから流れる汗の感覚だけがやけに大きく、汗は次第に広がってゆき、わたしは海水の一雫に棲むプランクトンの発光に想いを馳せていた。

 

わたしはかつてこの島の女学生だったことがある。
それが演劇作品の中の出来事であろうと、
白い砂を駆けつづけたことには変わりがない。
彼女はいまでもこの島のどこかで、 学校帰りにあんみつ屋さんに行くことを楽しみにして、下級生たちの喧嘩を見守り、幼馴染と恋の話を続けている。
そして、青すぎる空に浮かぶ鳥の影に向かって、指差している。
海水の一雫は、彼女の額の上でも発光していた。

 
 
 
 

フェリーの甲板から海原を眺めていた。
遠くで潮が上がる。
空に吐かれた呼吸には海中の歌が携えられている。
海中の歌は陸の震えを覚え、エコーを試みる。

 
 
 
 

座間味島
岬に横たわり水平線を縦に見る。
螺貝がゆり色に艶めいて、午後が夕暮れに傾く時の白く眩い部分を集めていた。
もし、小さなクリーチャーたちがこの島に存在していたら、あの螺貝には山盛りの海葡萄やダツの骨や、流木や珊瑚を盛って、毎夜あたらしい生命の誕生を祝っているのかもしれない。

 
 
 
 

わたしたちは、たえず発光している。
誕生の驚き
最愛を伝えるとき
わたしはここにいるとつよく願うとき
光をきれいと感じるこころ
その源の生物発光と共に
わたしはうたでありたいと
光るのでした。

 
 
 

2020.3.9 満月の夜に生まれた歌。

 

" アダンの島の誕生祭 "

だれか、ここに、いますか、
ふかい、うみの、そこ
そらと、よばれる、ところに
おおきな、ひかりのたま
うかんでいるよ、
こんやどこかで、

このこえが、きこえたなら、
こたえて、ちいさな、ふるえ
まだみぬ、すがたへ、おくるよ、メロディ

きみが、うまれたなら、
珊瑚はゆりかご、
貝はシェルター、
うみは泪溜め、
かぜはうた、

 

music & text:Ichiko Aoba photo:Kodai Kobayashi