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私が見つけた、私の仕事。焼き菓子店オーナー・坂入マキさんの、自分だけの働き方。June 14, 2025

50代で、ひとり焼き菓子店のオーナーに。

私が見つけた、私の仕事。焼き菓子店オーナー・坂入マキさんの、自分だけの働き方。
「ありがたいことにシェアキッチン時代から通ってくれる人も含め、7割がリピーターの方です」。盛り付ける皿は、坂入さんがフランスで買ったアンティークを中心に。

「今が一番自分らしいと感じます」と語るのは、念願の焼き菓子店を東京・武蔵野市の自宅1階にオープンした坂入マキさん。「マキさんのこだわりのモノ」という意味で『MAKIMONO』と名付けられた店は、その名の通り、お気に入りのアンティーク家具に囲まれ、パウンドケーキやグラノーラ、コンフィチュールなど、10種類ほどの焼き菓子が、美しく並べられている。

店を開けるのは週に一度だけ。仕入れ、仕込みから製造準備まですべて自身で行っているが、「このひとりだけの時間が、とても充実しています」と笑顔だ。

人に喜んでもらいたいという想いから、幼い頃よりお菓子づくりが好きだった。でも、飲食業界に飛び込むのは意外にも、40代とずいぶん先。大学卒業後は航空会社の客室乗務員として働き、その後結婚、出産。

「好きだった仕事からもしばらく離れ、育児に専念する日々でした。子育てが落ち着いた40代、気づけば社会から離れてしまったようにも感じて。何ができるかわからなかったけど、外の世界ともっと関わりたいという気持ちは強くありました。そんなとき、たまたま近所に開店したばかりのベーグル店の求人を見つけ、その場で『働けませんか』と聞いてみたんです」

ここから、人生が大きく動き出す。ベーグル店では接客販売から入り、製造まで任されるようになった。そしてある日、何げなく店長へ手作りの焼き菓子を差し入れると、それが好評で店頭で扱ってもらうことに。〈MAKIMONO〉誕生の瞬間であり、これが原点だ。

「今もそうですが、客室乗務員時代に国内外のおいしいものを食べ歩いた経験が、レシピに生かされることもあって楽しかった。おいしいと喜んでくれる人がいることはもちろん、自分が作ったものを通じてコミュニケーションが生まれることが、何より嬉しくて」

そんな最中、コロナ禍が訪れ、周囲の働き方は変わっていった。坂入さんも「好きなスタイルで働ける自分だけの場所を持ってみたい」と考えるようになり、選んだのが、駅の高架下にあるシェアキッチンだった。

私が見つけた、私の仕事。焼き菓子店オーナー・坂入マキさんの、自分だけの働き方。
スパイスを使ったキャロットケーキが一番人気。旬の果物の焼き菓子は季節ごとに変わるが、この日はチャイとプラム、苺とフランボワーズのケーキなど。

「枠が残りあとひとつだけと聞いて、運命を感じました。これは挑戦するしかないなと、7年働いたベーグル店を退職。まずはひとりでやってみようと、50代で初めて法人を立ち上げ、オンラインショップ、のちに週に一度の店頭販売も始めました」

すると、口コミやSNSを通じて人気が広まり、営業日にはいつも行列ができ、完売が続いた。

「時間と場所に制限があるシェアキッチンでは追いつかなくなり、いつでも自由に作業ができるアトリエがあったらと考えていたときに、一軒家を建てようかという話が上がってきました。そして夫からの提案で、せっかくなら1階を店と厨房にしてみない?と」

すると、すぐにぴったりな土地が見つかった。緑に囲まれた住宅街に位置し、目の前は小学校。53歳にして、ようやく理想の場所を手に入れることができた。

「これまでは、会社や組織、家族など、常に何かに属している自分でした。考えるのは私でも、決めるのは私ではない、という感覚がずっとあったというか」

しかし、自らの選択で『MAKIMONO』をオープンしてからは、”自分らしく自由でいること”がどういうことか、改めて気付くことができたという。

「独立して開業をすれば、すべてが自己責任。自由だけど責任が伴うということは大変ですが、何かに依存することなく、やりがいを感じられるのが楽しいです」

忙しい日々が続くが、家族との時間、お客さんとのコミュニケーションは大事にしたい、とも続ける。

「そして、小さなことでもいいので、これからも年齢を言い訳にせず挑戦をしていきたいですね」

坂入マキMaki Sakairi

客室乗務員、専業主婦を経て、『MAKIMONO』(東京都武蔵野市桜堤1−9−24)で焼き菓子店を営むほか、ケータリングやイベント販売も。営業日はInstagram(@maki_mono_)にて確認を。6月に東京・中目黒で開催される「キャロットマルシェ」に出店。

instagram.com/maki_mono_

photo : Hinano Kimoto

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