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あの人のスタイルをつくっている、 大人のもの選び。井上保美さん前編What Are Mature Persons Made of ?October 17, 2022
2022年9月20日発売の『&Premium』の特集は「大人になったら選びたいもの、こと。」服選びやもの選びを通して、理想の素敵な大人について考えました。井上保美さんの「あの人のスタイルをつくっている、 大人のもの選び。」前編をご紹介します。
暮らしのなかで愛用する道具、大切にしている装い、心を潤す本やアート。
自分らしい生き方を貫き、楽しむ4人の大人たちが選びとってきた品々には、経験を重ね、試行錯誤を繰り返して培われたセンスと哲学が宿っていました。
おばあちゃんになっても愛しいもの。Mature Persons 01
45年間、ファッションデザイナーとして活躍してきた井上保美さん。4年前に引っ越した家は、彼女が大切に思うもので満ちている。その基準となるのは、"いくつになっても持っていたい"こと。
もの選びで大切なのは、 "好き"に対して妥協しないこと。
2022年に創業45周年を迎えたブランド〈45R〉。東京・代官山の小さな部屋からスタートし、自然素材による、まとって気持ちのいい服を作り続けてきた。その立ち上げから現在までデザイナーを務める、同社副社長の井上保美さんの家には、大人だからこそ心に響く、目利きならではの逸品が揃っている。
自分では「大人になった実感がない」という井上さんだが、その審美眼は若い頃からぶれることなく、数十年前に購入して、今でも大事にしているというものもたくさん。その一つが、手描きで模様が施された小さなリキュールグラスだ。
「40年くらい前に初めてヨーロッパに行ったときに蚤の市で購入しました。一目見てかわいい、と思い、それから少しずつ集めました。若くてお金がないので高級なワインは飲めない。けれど、せめて素敵なグラスで飲みたいと、安いワインをこれに入れて気持ちを盛り上げていました。まだ専用のグラスでワインを飲むとよりおいしくなる、というのも知らなかった頃です。これは今見ても『ああ、かわいいなあ』と思うもの。アンティークや手仕事のものに惹かれるのは、若いときから変わっていません」
なので、食器やアクセサリー、メガネといった装飾品も古いものが多い。
「それほど料理をするわけではないのですが、食器が大好きなんです。様々なタイプを持っていますが、特に花柄は多いかもしれません。アンティークから作家ものまで、いろいろと揃っています。花柄は〈45R〉でもよく使うモチーフ。こういった古い食器からインスピレーションを得ることもあります」
また、アクセサリーも井上さんの装いに欠かせないアイテム。光りもの、ウッド系、ターコイズなどテイスト別に引き出しに収められているが、特にパールには思い入れが強いという。45周年記念として、井上さんの好きなものを詰め込んだ期間限定コレクション“パトアシュ”で、〈ミキモト〉が制作協力をしたパールアクセサリーも作った。
「私がデザインする服は、案外とシンプルなんです。アクセサリーを着けることで、エレガントになり、コーディネートが完成します。とても重要なので、いいと思ったものは買うようにしています」
もう一つ、アクセサリー同様に必ず身に着けるのがメガネ。大人になったからこそ使えるようになったリーディンググラスだ。
「もともと目が良かったので、メガネに憧れていて。老眼になってどうしても必要になったときは、ものすごく嬉しかったですね。フレームのほとんどはヨーロッパの蚤の市で買ったもの。丸い形が多いです。レンズは日本で作って入れています。洋服に合わせるというよりも、近くを見るのか、遠くを見るのか作業内容によって取り換えています」
さらに、インドの手織りストールも井上さんの好みがギュッと詰まった一品。
「パリのギャラリーで購入。高かったけれど一目惚れでしたね。花柄の感じも色の組み合わせもすごくかわいくて、私の好きなテイストが一枚に凝縮されています。しかも、体を包み込める大きさなので、羽織るだけで華やかになるんです。これはおばあちゃんになっても使えると思って買いました」
この“おばあちゃんになっても持っていたいかどうか”というのは、井上さんが、ものを選ぶ際の大きな基準になっている。
「何かを手に入れる際、おばあちゃんになっても使いたいか、好きでいられるかは必ず考えます。捨てるのがイヤなので、買うときは高くても妥協せず、いいものを買うようにしています。その嗜好も、お金がなかった若いときから変わらないですね」
高くても満足できるものを、という姿勢は靴選びにも表れている。
「レースアップシューズやブーツは、イタリアの靴メーカー〈ジンターラ〉のオーダーメイドです。ニューヨークのうちの店の近くに店舗があって、レディスのオーダーもできると聞いて、コードバンのレースアップを注文しました。22年前のことで、メンズライクな女性靴があまりなかった時代。当時1足30万円すると言われてびっくりしましたが、どうしても欲しくて。気に入ってそれからも数足作り、初代も現役なので、高くても作って良かったです」
井上保美 〈45R〉デザイナー
45年間、ファッションデザイナーとして活躍してきた井上保美さん。4年前に引っ越した家は、彼女が大切に思うもので満ちている。その基準となるのは、"いくつになっても持っていたい"こと。
photo : Isao Hashinoki (nomadica) edit & text : Wakako Miyake