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「真珠織と彫刻家具と本」の展示会が、東京・銀座『和光本店 アーツアンドカルチャー』で3月19日まで開催。March 07, 2025 /〔PR〕

東京・銀座の『和光本店』地階にある『アーツアンドカルチャー』で、ペルシャ絨毯とオブジェのような家具、そして書籍を取り合わせたユニークな展示が始まる。手紡ぎ・草木染による極上の絨毯の風合いと、廃木の姿形を生かした本棚やスツール、その世界感に寄り添う選書に惹かれるイベントだ。

真珠織の絨毯に〈象鯨〉の彫刻家具を取り合わせた空間。この世界観に合わせて幅允孝が選書した書籍を加え、〈和光〉本店地階「アーツアンドカルチャー」でお披露目される。彫刻家具は右から《水草》桜 231,000円 (H46×W32×D31cm) 、《マスレータワー》欅 440,000円 (H160×W18×D14.9cm) 、《摩天楼》欅 726,000円 (H240×W40×D27cm) 。《兜》タブノキ 880,000円 (H88×W80×D33cm) 。 photo_Masanori Kaneshita「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。
真珠織の絨毯に〈象鯨〉の彫刻家具を取り合わせた空間。この世界観に合わせて幅允孝が選書した書籍を加え、『和光 本店 地階 アーツアンドカルチャー』でお披露目される。彫刻家具は右から《水草》桜 ¥231,000(H46×W32×D31cm)、《マスレータワー》欅 ¥440,000(H160×W18×D14.9cm)、《摩天楼》欅 ¥726,000(H240×W40×D27cm)。《兜》タブノキ ¥880,000(H88×W80×D33cm)。 

展示のタイトルは「真珠織と彫刻家具と本」。詩的で印象的なタイトルだが、よくよく考えてみると、この3つの要素はどのような意図で組み合わされたものだろうか。一一そもそも“真珠織”とは? “彫刻家具”とは?一一そのあたりから、ひもといていきたい。

「“真珠織”とは、ペルシャ絨毯の織りの一種です。『和光』では、以前から羊毛を手で紡ぎ、天然の染料で染めた糸を用いて手織りでペルシャ絨毯を制作する〈ミーリー工房〉の日本総代理店である〈ミーリーコレクション〉とお付き合いがあり、販売を行なっています。その〈ミーリーコレクション〉の東京・白金台ショールームには、ため息の出るような素晴らしい絨毯と呼応するように、極めてユニークな木工家具が置かれていて、自然のままの木の姿を生かしたスツールや棚にすっかり魅了されました。それが〈象鯨〉が提唱する“彫刻家具”だったのです。

ともに自然素材から生まれ、人間の手仕事によって形づくられ、本来あるべき姿をとどめながら存在し、時を超えて何世代にもわたって受け継がれていくプロダクトであることに共通性を感じ、両者を取り合わせた展覧会を企画しました。ご紹介する家具の中には本棚も多く含まれていたことから、そこにふさわしい書籍を並べようということになり、選書をブックディレクターの幅允孝さんにお願いしました」(『和光』担当者)

「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。 羊毛の手紡ぎから染色の工程を経てようやく織られる絨毯。数年がかりで作られる絨毯は使い込まれたソファと同様、子や孫の代へと受け継ぎたいアイテムだ。《真珠織の絨毯》 (アゼルバイジャン地方/ウール) 495,000円 (141×120cm) photo_Masanori Kaneshita
羊毛の手紡ぎから染色の工程を経てようやく織られる絨毯。数年がかりで作られる絨毯は使い込まれたソファと同様、子や孫の代へと受け継ぎたいアイテムだ。《真珠織の絨毯》(アゼルバイジャン地方/ウール)¥495,000(141×120cm) 
「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。 《真珠織の絨毯》 (アゼルバイジャン地方/ウール) 968,000円 (212×163cm) 。「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。
《真珠織の絨毯》(アゼルバイジャン地方/ウール)¥968,000(212×163cm)。

そもそもペルシャ絨毯とは、イランで伝統的に織られている手織りの絨毯のことを指すが、20世紀以降は化学染料と紡績機械が導入され、20世紀後半に入った頃にはほぼ全ての絨毯が合成染料と機械で紡績された繊維の物で占めるようになったという。1980年代に途絶えてしまった本来の手紡ぎ・草木染の絨毯を、徹底的に研究し復活させたのが〈ミーリー工房〉だ。藍・茜・胡桃・葡萄の葉・柘榴(ざくろ)・エスペラック・コチニールなど自然の植物や虫などから抽出した色素から生まれる濃淡のバリエーションは、化学染料では出せない味わいがある。この色の発色の良さの鍵となるのが、手紡ぎの工程なのだと〈ミーリーコレクション〉のソレマニエフィニィ・アミールさんは語る。

「機械で紡績すると羊毛のキューティクルが壊されてしまいます。すると本来適度な油分によって保たれていた毛糸の湿度と温度のコントロールが効かなくなり、染め上がったときの艶やかさや透明感が得られません。染料と羊毛の質、紡ぎ方、すべてが噛み合ってこそ、本来の絨毯のクオリティが保たれるのです」(アミールさん)

「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。 結び目がパール粒のように並んで露出している「真珠織」。折れ線で表現されたパルメット文様が全体にちりばめられている。使用していくと結びの玉に艶が生まれ、真珠の粒のように輝きをまとうことから、「真珠織」と呼ばれている。《真珠織の絨毯》 (アゼルバイジャン地方/ウール) 1,540,000円 (260×195cm) 部分 photo_Masanori Kaneshita
結び目がパール粒のように並んで露出している「真珠織」。折れ線で表現されたパルメット文様が全体にちりばめられている。使用していくと結びの玉に艶が生まれ、真珠の粒のように輝きをまとうことから、「真珠織」と呼ばれている。《真珠織の絨毯》(アゼルバイジャン地方/ウール)¥1,540,000(260×195cm)部分 

今回展示されるペルシャ絨毯の中でも注目なのが“真珠織”と呼ばれるタイプだ。

「欧米ではペルシャ絨毯を何世代にもわたって家宝のように受け継ぐものでしたから、年月とともに表面のケバが擦れ落ちて、最終的には結び目だけになったアンティーク品が好まれる傾向がありました。そのため、新品の絨毯の毛足をわざと短くカットして販売する工房もあったほどです。しかしイラン北西部アゼルバイジャン地方にはかつて、結び目が露出する作り方をする絨毯が存在していました。結び目をパールになぞらえて呼ばれていたペルシャ語の名前を私たちは“真珠織”と訳し、2000年代初頭から復活、制作しています」(アミールさん)

“真珠織”の特徴はまずそのテクスチャーにある。表面に結び目が並び、紋様がはっきりと見える。そして素足で触れた時、結び目の凹凸を感じることができるため、日本の畳やゴザの感覚と似ていると感じる人も多いという。

「クセになる味わい深さがあり、こちらのほうを好む方も多くいらっしゃいます」とアミールさん。

「今回ご紹介する真珠織の絨毯は、イランのアートや工芸に出てくるさまざまなモチーフ、馬やラクダやライオンなどの動物柄や、バラ、チューリップ、ハスなどの花模様、神話や祭祀の図柄など、バリエーションが豊かです。幅120㎝程度の絨毯でも1枚織るのに速くて約1年以上、それ以前に糸染めにも時間を要してやっと出来上がるものですから、その悠久の時間に想いを寄せながら、絨毯の上でゆっくりと時を過ごしてほしいです」

「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。上:参考商品 下:《真珠織の絨毯》 (アゼルバイジャン地方/ウール) (141×120cm) 495,000円
上:参考商品 下:《真珠織の絨毯》(アゼルバイジャン地方/ウール)(141×120cm)¥495,000
「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。 使い込まれて毛足の短くなったアンティークのペルシャ絨毯は柔らかい (参考商品) 。 photo_Masanori Kaneshita
使い込まれて毛足の短くなったアンティークのペルシャ絨毯は柔らかい(参考商品)。 
「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。《真珠織の絨毯》 (ヘリーズ/ウール) 473,000円 (122×82cm) 。
《真珠織の絨毯》(ヘリーズ/ウール)¥473,000(122×82cm)。
「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。《真珠織の絨毯》 (アゼルバイジャン地方/ウール) 495,000円 (156×102cm) 。
《真珠織の絨毯》(アゼルバイジャン地方/ウール)¥495,000(156×102cm)。

一方、絨毯とともに展示されるユニークな彫刻家具を製作するのは、神奈川県大磯町を拠点とする芸術家集団〈象鯨〉の代表・西村浩幸さんだ。

ケヤキ、白カシ、クヌギ、コナラ、サクラなどの廃木を材料とし、主にチェーンソーで丸太から形作っていき、継ぎを使わず仕上げる。

「基本的には伐採された木や倒木を使い、材を得るために立ち木を切ることはありません。捨てられるような木を入手しているので、たいていの場合、楔が打ってあったり、中が腐っていたり、節だらけだったり、ねじれていたりするのですが、その姿に抗わずに形を作っていくと、思いがけず良い形が生まれるのです。事前にデッサンは描きますが、それだけを追い求めてもダメなんです」(西村さん)

「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。日常的に人物デッサンをしている西村さんの彫刻家具は、どこか人間の姿を思わせる。右は本棚以外に帽子かけや小物を置くディスプレイにも使える。右:〈象鯨〉の彫刻家具《おっ塔さん》金木犀 385,000円 (H155×W37×D21cm) 左:《ピンコロ》欅 253,000円 (H50×W31×D31cm) photo_Masanori Kaneshita
日常的に人物デッサンをしている西村さんの彫刻家具は、どこか人間の姿を思わせる。右は本棚以外に帽子かけや小物を置くディスプレイにも使える。右:〈象鯨〉の彫刻家具《おっ塔さん》金木犀 ¥385,000(H155×W37×D21cm) 左:《ピンコロ》欅 ¥253,000(H50×W31×D31cm)
「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。〈象鯨〉の彫刻家具《兜》タブノキ 880,000円 (H88×W80×D33cm) photo_Masanori Kaneshita
〈象鯨〉の彫刻家具《兜》タブノキ ¥880,000(H88×W80×D33cm)

90年代バブル期に次々と素晴らしい木造建築が壊され、宅地造成で多くの木が伐採される様子を目の当たりにしたという西村さん。近所を走り回っていた廃材や大木を乗せたトラックに声をかけて、捨てられる木材を譲り受けたのがきっかけだったそうだ。

「20年ほど前に、亡くなった染色工芸家の柚木沙弥郎さんと二人展をしたとき、僕の彫刻を柚木さんが買ってくださいました。それは家具ではなくオブジェでしたが、柚木さんはメキシコの土人形を飾って楽しんでいたそうです。しかし本来、棚ではないので、人形は全部落ちて壊れちゃったと。それを聞いて、物を置ける機能を持った彫刻家具を作り始めたのがきっかけです」(西村さん)

ペルシャ絨毯の〈ミーリーコレクション〉とは長いお付き合いがある。

「イランの工房を訪ねたこともあります。絵柄の考え方や素材の選び方など、あちらの作っている絨毯と僕の彫刻には共通項があるなと思いました。天然素材から生まれた絨毯に寝そべって、大地に生えていた樹形を思い起こさせる家具に寄りかかって本を読み、想像力を豊かにしていく。そんないい出会いが生まれる展示になったかと思います」

「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。今回の展示で一番大きい〈象鯨〉の彫刻家具《みんなの本棚》。4つの丸太から切り出した棚を突き合わせて一つの本棚になる。《みんなの本棚》欅 11,000,000円 (H180×W160×D90cm) photo_Masanori Kaneshita
今回の展示で一番大きい〈象鯨〉の彫刻家具《みんなの本棚》。4つの丸太から切り出した棚を突き合わせて一つの本棚になる。《みんなの本棚》欅 ¥11,000,000(H180×W160×D90cm) 
〈象鯨〉の彫刻家具《空豆君》欅 770,000円 (H185×W35×D18cm)
〈象鯨〉の彫刻家具《空豆君》欅 ¥770,000(H185×W35×D18cm)
「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。〈象鯨〉の彫刻家具《糸巻き》タブノキ 231,000円 (H44×W30×D30cm)
〈象鯨〉の彫刻家具《糸巻き》タブノキ ¥231,000(H44×W30×D30cm)

今回のペルシャ絨毯と彫刻家具の展示に合わせて選書したのが幅允孝だ。

「〈ミーリーコレクション〉のショールームでアンティークも含めさまざまな絨毯を拝見し、先人たちから受け継がれた技法や素材、文様の意味などにじかに触れ、そこから選書を始めようとしたとき、キーブックとなったのが金井真紀さんの『テヘランのすてきな女』という本でした。ヒジャブの着用強制反対デモが拡大していた2022年にテヘランを訪れた著者が、現地のさまざまな女性たちに出会い、話を聞くという内容ですが、彼女らの凛とした強さに心揺さぶられます。イラストも添えられていて重苦しくはなく、いい意味で寛容さを感じる本です。現在進行形のイランを知るこの本からスタートして、イランの昔話や『ルバイヤート』という伝統的な四行詩の本、絨毯の紋様辞典などへと広げていきました。

彫刻家具にちなんで、アントニー・ゴームリーの『彫刻の歴史』や木にまつわる本、それから〈象鯨〉の西村さんと交流のあった故・柚木沙弥郎さんの本も集めました。この時代にわざわざ紙の本があることの意義に、手触りや装丁の美しさを楽しむということがあると思います。そういう意味で書籍は、絨毯や彫刻家具とも共通する、ヒューマンスケールを感じられる存在ではないでしょうか。展示会にいらした方はぜひゆっくりとスツールに座って本をめくり、普段とは違う時間の流れに浸ってほしいです」(幅さん)

「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。 ペルシャ絨毯の伝統的な紋様に込められた意味を学べる本なども、会場に並ぶ予定だ。本はすべてその場で手に取って読むことができ、もちろん購入も可能。 photo_Masanori Kaneshita
ペルシャ絨毯の伝統的な紋様に込められた意味を学べる本なども、会場に並ぶ予定だ。本はすべてその場で手に取って読むことができ、もちろん購入も可能。 
「真珠織と彫刻家具と本」の展示会、銀座〈和光本店〉「アーツアンドカルチャー」で開催。彫刻の歴史や樹木にまつわる図鑑なども選ばれている。本を支えているのは、〈象鯨〉の彫刻家具・スツール《背もたれcubo》桐 385.000円 (H91×W33×D35cm) 。
彫刻の歴史や樹木にまつわる図鑑なども選ばれている。本を支えているのは、〈象鯨〉の彫刻家具・スツール《背もたれcubo》桐 ¥385.000(H91×W33×D35cm)。

合理化と効率性に支配される現代社会とは一線を画し、自然の理にしたがい、時間をかけて人間の手でつくり出される絨毯と家具。読書もまた、忙しい日常から離れ、知識と想像の世界に浸るひとときだ。真珠織と彫刻家具と本、3つのコラボレーションによる展示を見て回るとき、思いのほかゆったりとした時間を体験し、家に持ち帰りたくなるだろう。

Event Information「真珠織と彫刻家具と本」

場所:『和光本店 アーツアンドカルチャー』東京都中央区銀座4丁目5-11 和光 本店地階
日時:2025年3月19日まで開催中 11:00〜19:00 会期中無休
問合せ:☎︎03-3562-2111

Profileソレマニエフィニィ・アミール 〈ミーリーコレクション〉代表

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イラン・カシャーンで代々織物工房を経営する家に生まれる。1985年、父アリ氏がミーリー工房の日本総代理店を設立。以後、父子でペルシャ絨毯を日本に広め、15年前から手紡ぎ・草木染の絨毯製作を復活させた。

Profile西村浩幸 〈象鯨〉代表

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1960年大阪府生まれ。東京藝術大学卒業後、高校、予備校の教師を経て2008年に芸術家集団〈象鯨〉を設立。

Profile幅允孝 〈BACH〉代表

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1976年愛知県生まれ。青山ブックセンター六本木店などを経て2005年に本の選書を担う有限会社〈BACH〉を設立。

photo : Masanori Kaneshita text : Mari Matsubara edit : Keiko Kusano

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