MOVIE 私の好きな、あの映画。
極私的・偏愛映画論『アドベンチャー・ファミリー』選・文/鰤岡力也(〈MOBLEY WORKS〉代表) / November 26, 2018
This Month Theme尊敬できるクラフトマンに出会える。
父親はクラフトマン。
1975年のアメリカ映画。大気汚染が進む大都会ロサンゼルスに住む家族4人が、子供の喘息を治すために自然豊かなロッキー山脈に移住する話。隣の家まで40kmという本当に自然しかない山中で、父親を中心に家族みんなで協力し合いながら木を倒し、ログハウスやボートを作ったり、魚釣りをしたり……。一見楽しそうな生活に見えるが、野生のクマやアメリカライオン、オオカミなどが散歩中の子供達を襲ったりする。なんとか無事に助かり、父親は“いい勉強になったな”なんて男のロマン的なことをいうが、母親は心配でしょうがない。極めつけには人喰いクマがみんなで作ったログハウスを壊しながら襲ってくる。
この頃のアメリカというと、都会は急ピッチに発展し、ビルはどんどん建ち、ハイウェイを縦横無尽に作り、実利主義にどっぷり浸かっている時代だと思う。そういう現代文明の世界を離れ、人間の真の精神的、物質的生活を求め始めた最初の頃であろう。山歩きをし、テントを張ることで価値観の転換を図ったわけである。
この考え方は現代に置いても全く変わっておらず、むしろ共感するところが多い。忙しく過ごしている人ほどうなずくことが多いのではないだろうか。
僕もそんなに都会が得意ではなく、なるべく自然豊かなところに住みたいなと思っている。ロッキー山脈の山奥に住む勇気はさすがにないのだが、数年前に郊外の緑豊かな場所に居を構えた。家具を作り、店舗内装をするのが生業なので、我が家の内装や家具もほぼ作ったわけである。自分たちで使う道具を買うのではなく作る。それが格好良かろうが格好悪かろうがどうでもいいことで、これに勝るものは他に見当たらない。
「クラフトマン」というと、ある一定の特化したものを作る人を想像するが、僕はそうは思わない。このアドベンチャーファミリーの父親スキップのように、家族・シェルター・クラフトなど、生きるうえでのすべてのことに工夫を凝らし、“なるべく簡単に解決しないで生きること”が僕の考えるクラフトマンである。
丸太をのこぎりで切っている場面の挿入歌に “人生とは学ぶこと、押しても駄目なら引いてみな”との歌詞が。クラフトマン全員の合い言葉だ。