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「自分を客観的にみる」『李青』オーナー・鄭 玲姫さんの、暮らしとセンス (前編)April 01, 2023
2023年3月20日発売の『&Premium』の特集は、「センスのいい人が、していること」。センスがあるといわれる人たちは、どんな暮らしをしているのか。 ここでは京都で李朝喫茶『李青』を営む鄭 玲姫(チョンヨンヒ)さんの暮らしを紹介。「家の中の気に入っている場所」「自分のセンスを育んできたもの」「日々、大事にしている習慣」「大切に思っているものたち」の4つを通して、鄭さんのセンスを紐解きます。
この記事は前編です。後編はこちら。
1.家の中の気に入っている場所。 Comfortable Space
自分の居場所でもある書斎の本棚には、ミニチュアの本や陶器が置かれている。「細かいものが好きで、たくさん集めていました。もっとたくさんあったのですが、より抜きで。ここは自分だけの世界。本当に暮らしているイメージです。箱の中に家を作って没頭する。それをあちらこちらに作っている気がします」
2.自分のセンスを育んできたもの。 Past Experiences
李朝について教えてくれた、師匠と敬愛している茶房『李白』。そこから譲られた陶器の他、様々な民藝の本は鄭さんの宝物。「民藝は世界中にあるし、侘び寂びの感覚も名前をつけたのは日本独特の感性ですが、西洋、東洋問わずどこにでも存在しています」。右下の写真は韓国の民俗村、河回村(ハフェマウル)を旅したときのもの。
他人に追随しない、 オリジナリティを持つ。
京都で李朝喫茶『李青』を営む鄭 玲姫さんのセンスに対する考え方は、とても明快だ。
「75年という長い人生のなかで一つだけはっきりわかったのは、むやみに他人の真似をしてはいけないということ。それだけはずっと思って生きてきました」
流行りやみんなが持っているから、という理由で自分の持ち物を決めるのは、愚の骨頂だと言う。
「これだけ多種多様なデザインがあるなかで、本当に好きで似合うものは何かをとことん自分に問うてみる。なおかつ人と同じは嫌だとなるととても難しいのですが、それをきちんと考えないとおかしなことになってしまいます」
例えば鄭さんは花柄が大好き。けれど、自分には似合わないことも知っている。だから、人が身に着けているのを見たり、小物にさりげなく取り入れたりすることで、楽しむと決めている。
「諦めが肝心なんです。好きだから似合ってほしいという気持ちはわかりますが、似合わないものは似合わない。諦めないから間違ってしまう。周りは褒めるばかりですから、自分で自分を冷静にジャッジすることが、センスには必要なのではないでしょうか」
その方法として、鄭さんが勧めるのは全身鏡を見ること。
「あくまで私のやり方ですが、寝室に姿見を置いていて、全身をコーディネートしたら、ふわっとそこに入っていくんです。そうすると鏡に映った姿が他人に見える。そこで違和感があれば似合っていないということ。出かけるときはいつも確認しています」
彼女のスタイルの基本は、色数が少なく、エレガントであること。
「そうなったのは30代に入ってから。洋服など40年ほとんど変わっていません。自分らしさというオリジナリティを持つ。これがもっとも大事だと思います」
そんな鄭さんが『李青』をオープンしたのは1998年のこと。東京・神田にあった茶房『李白』に感銘を受け、京都にも李朝文化を紹介する店を出すことを決意。出町柳に1階を喫茶、上階を住居にした建物を作ることになった。その家には、彼女が刺激を与えられたものもたくさん。
「父が李朝のコレクションをしていたのですが、若い頃はなぜいいのかわからなかった。けれど、40代くらいから華やかなものに惹かれなくなり、横にあってもいいな、と思うようになって、勉強を始めました。日本の白磁や古伊万里から始まり、最終的に辿り着いたのが李朝。それら民藝の本は今も目を通します」
もちろん『李青』を作るきっかけとなった『李白』から受けた影響も大きい。
「亡くなった『李白』の宮原重之さんを私は勝手に師匠と思っています。李朝を見ながらお茶が飲め、文人らが集っている。その空間に衝撃を受け、文化都市である京都にもこんな店があればいいなあ、と思って相談したら、ぜひとおっしゃっていただき、自分の店を開くことができました。『李白』を閉めるときも陶器などを譲っていただき、この店のセンスも、私を育んだといえると思います」
鄭 玲姫 『李青』オーナー
1947年大阪生まれ、京都育ち。1998年に李朝の陶磁器や家具調度品、西欧、アジアのアンティークも置かれた李朝喫茶『李青』をオープン。寺町の2号店は閉店。ものとの出合いは恋におちるようなもの。合図がやってくるという。
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photo : Yoshiki Okamoto edit & text : Wakako Miyake