MOVIE 私の好きな、あの映画。
極私的・偏愛映画論『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』選・文/恵藤 文(『夏椿』店主) / July 27, 2018
This Month Theme心地よい暮らしぶりに学ぶ。
花が枯れたら摘み、雑草を抜く。ターシャ・テューダーの庭造りの愉しみ。
何年か前、ふとつけたTVで放映されていたのがターシャ・テューダーのドキュメンタリー番組でした。絵本作家ということや名前を聞いた事がある程度の認識でしたが、内容はもちろん、美しい庭や家の映像にどんどん引き込まれていったのを覚えています。
ターシャの家は、18世紀の憧れの農家をお手本に息子が一人で建てたもの。低い天井に切り立った屋根や格子窓があり、とても雰囲気のある家です。キッチンには、使い込まれたさまざまな形の銅鍋。洗面台にはコットンを入れる美しいガラスのポットや色絵や染め付けの磁器のケースが並びます。生活の中の道具のすべてにターシャの好みが反映されていることにも興味津々でした。家を建てたアメリカ合衆国北東部のバーモント州は、季節がはっきりしているという理由で、いつかは住みたいと思っていた土地だったそう。「ずっと思い続けて今ここに居るの」と話しています。
広大な庭には、雑草から好きな花などさまざまな草花を植えて、種から育てています。映像の中のターシャは既に91歳! 気候が心地よいときには、裸足で過ごすことも。毎日、木版更紗やプリントの花柄スカーフを頭に、チェックや花柄のエプロンを身に着けた、まるで絵本の中から出て来たような装いにもじっと見入ってしまいます。庭仕事は花が枯れたら摘み、雑草を抜く。「庭仕事のほとんどは雑草を抜いているわね」と言っています。
私は東京の世田谷区から鎌倉市に店を移転してから庭が広くなったので、ちょこちょこ雑草を抜く毎日で、この言葉に共感するところがあります。ターシャの庭造りを愉しむ方法には、いろいろと学ぶことが多いです。
また、ターシャの人生哲学と言われる言葉もいろいろと出てくるのですが、亡くなる前に息子が質問した「次の人生は違う生き方をしてみたい?」という問いの答えは「いいえ。ひとつも不満がないんだもの」でした。
ターシャがバーモント州に家を建てたのは60歳の時。そこから30年、庭造りをし続けました。
「何かをやりたいと思ったらまず始めなさい」「美しい世界を謳歌しないと」と息子に伝えた彼女の言葉。これから何をしたいのか、やっていきたいのか。愉しむことを大切にしながら改めて考えてみたいと思った映画です。