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「完璧じゃなくても大丈夫。だからこそ、人生は美しい」。俳優のシム・ウンギョンさんが語る、映画『旅と日々』のこと。November 05, 2025

「完璧じゃなくても大丈夫。だからこそ、人生は美しい」。俳優のシム・ウンギョンさんが語る、映画『旅と日々』のこと。

 映画『怪しい彼女』、『サニー 永遠の仲間たち』などのヒット作に出演してきた俳優のシム・ウンギョンさん。役ごとにその世界を“生きている”と思わせてくれる彼女は、「韓国映画界の至宝」と称されるほど。今回、主演を務めたのは、もともと彼女が作品のファンだったと言う三宅唱が監督・脚本を務める『旅と日々』。脚本を読んだ段階で「この作品を通してでしかできない表現や伝えられることがきっとある。やるべきだ」と即決したという。その理由と作品の魅力について、聞いてみた。

映画づくりを通して、ギフトをもらったよう。

 人生をどう生きたらよいのか、モヤモヤとした不安を抱えたり、ときには才能に行き詰まりを感じることがあるかもしれない。シム・ウンギョン演じる脚本家の李も、そのひとり。この作品は、そんな李が都会の喧騒を離れ、旅先の宿主・べん造(堤真一)との出会いから、ほんの少し人生の歩みを進めるロードムービー。念願だった三宅監督率いるチームとの撮影期間を振り返り、「映画をこよなく愛し、真摯に向き合う人たちと団結して作り上げたあの時間は、役者にとってのギフト」だと、清々しく語る。

 マンガを芸術へと昇華したつげ義春による2つの作品をもとに、現代版にアップデートした本作。現実世界と、脚本家の李が描く脚本世界が並行して進行する。

「普段はここでどういう感情を込め、どんな表情をすれば?など、深く入り込んで準備をしますが、『旅と日々』の脚本には、味わったことのない親近感を覚えました。日本と韓国を行き来してしているからより強く思うのかもしれませんが、世の中には言葉で言い尽くせない美しさ、言葉を超える気持ちや絆がある。それをこの映画が表現してくれている、と。

 だからこそ”あるがままでいること”を大切に、そこから生まれる何かがきっとあると信じて挑みました。実際、監督の脳内にはしっかりプランがあったはずですが、現場の空気や新たに発見した役者の個性を、繊細に織り交ぜていく。それがとても新鮮で、『映画って生き物なんだ』と思いましたし、お芝居するのが楽しくて仕方なかった子役時代の頃のようなワクワクした感覚に! 毎日が感動でした」

「完璧じゃなくても大丈夫。だからこそ、人生は美しい」。俳優のシム・ウンギョンさんが語る、映画『旅と日々』のこと。

監督ならではの手法と美しい映像を通して感じた、新しい映画体験。

 波が猛る夏の海辺、雪が吹き荒ぶ北国ーー五感を揺さぶり、旅気分へと誘う雄大な景色を背景に、登場人物たちの言動は静かに、けれど足跡のように“何か”を残す。今の時代に映画化する意味も大きい。

「現代は、情報速度がとてつもなく速いし、流行もあっという間に切り替わる。私もそのスピードについていけないところもあるし、李さんのように『自分には才能があるのだろうか?』と考えることもあります。初号を観たときのこと。監督から『ウンギョン、どうだった?どうだった?』と聞かれましたが、すぐには答えられなくて。少ししてから『少しの哀しみや切なさがあって、だけどユーモアや晴れやかさも残っている。独特の手法や美しい映像含め、こういう感情を味わった作品が初めてで、新しい映画体験ができました』とお伝えしました」

 日々が人生になり、人生はまるで旅のようでもある。

「雪の大地を、李さんがふらつきながら少しずつ進んでいくシーンがあるんです。脚本世界で描かれる髙田万作さん演じる夏男のつぶやきと相まって、“私は私のペースで歩けばいい。完璧じゃなくても大丈夫”と教えてもらった気がしますし、だからこそ人生は美しい。生きるうえで必要な要素がここにある気がします。この作品は、スクリーンを通して心と体が旅するような感覚を味わえる。明日もがんばって生きようという気持ちになってもらえたらうれしいし、もしかしたら何らかの気づきや答えが見つかるかもしれません」

For Better Life
「ベターライフのために大切にしていることはありますか?」

「完璧じゃなくても大丈夫。だからこそ、人生は美しい」。俳優のシム・ウンギョンさんが語る、映画『旅と日々』のこと。

&Premiumが大切にしている「Better Life(より良き日々)」。それを叶えるためのヒントをシム・ウンギョンさんに聞いてみました。

「CDプレーヤーで音楽を聴くこと」:子どもの頃から音楽は大好きで、生活に欠かせないもの。CDを買うことも趣味のひとつです。何をかけようか? どんなメロディが始まるんだろう? と余白を楽しむことができるのがCDプレーヤーを使って聴く醍醐味だと思います。日本はCDのカルチャーがまだ残っているので、時間を見つけては『タワーレコード』へ。このプレーヤーもそこで手に入れました。愛聴しているのは、フランス人ピアニスト、ジャン=エフラム・バヴゼによる『ラヴェル&ドビュッシー:ピアノ協奏曲集』です。

シム・ウンギョン Shim Eun-Kyung俳優

1994年生まれ。韓国出身。子役として2004年にデビュー。映画『怪しい彼女』(2014年)で、第50回百想芸術大賞最優秀主演女優賞などを受賞。日本でも活躍の幅を広げ、映画『新聞記者』(2019年)で第43回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ、数々の賞を受賞。

Movie Information『旅と日々』

監督・脚本を手がけたのは、「夜明けのすべて」「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱。マンガを芸術へと昇華したつげ義春による2つの作品(『海辺の叙景』、『ほんやら洞のべんさん』)をもとに、現代版にアップデートした本作。執筆に行き詰まった脚本家の李(シム・ウンギョン)が、旅先でのべん造(堤真一)との出会いをきっかけに人生と向き合う姿を描く。共演は河合優実、髙田万作、佐野史郎ら。第78回ロカルノ国際映画祭のインターナショナルコンペティション部門において、最高賞の金豹賞を受賞。

公開日:2025年11月7日(金)
監督、脚本 : 三宅唱
出演 : シム・ウンギョン 堤真一 河合優実 髙田万作

詳細はこちら

photo : Shinji Harada  styling:Yoshiyuki Shimazu  hair & make up:Toshihiko Shingu(VRAI)  text : Yukino Hirosawa

衣装協力 : PS Paul Smith/PS ポール・スミス(Paul Smith Limited/ポール・スミス リミテッド☎︎03-3478-5600)

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