FASHION 自分の好きを身に付ける。
森や海にある原素材から美しさを見いだした、〈su Ha〉の呼吸するジュエリー。Shape of Style to Come 04 / January 25, 2021
機能的、肌触りがいい、耐久性がある、美しい……。『アンドプレミアム』が服選び、もの選びの際に大切にしてきた“つくりのいいもの”という考え方。そして今、未来を考えたものづくりには、技術の継承、パートナーシップ、自然への感謝、サステナビリティ……という、対象を思いやる視点が欠かせません。そうしたものづくりを行うブランドの中から、〈su Ha〉のつくりのいいものが生まれる現場を訪ねました。
Shape of Style to Come 04 : su Ha
命に宿る美しさをジュエリーに閉じ込め、表現する。
息を吸って、息を吐く。そんな呼吸音のオノマトペが印象的なジュエリーブランド〈スハー〉。森や海から取り出したままの原素材、命あるものから生まれた素材を使ったジュエリーを展開する。モチーフは幅広く、木材、鹿の角、琥珀、天蚕生糸、アワビ、サンゴ、サザエ、キジの羽根などさまざま。なかでも虫喰いのあるアワビの貝殻、害獣として駆除された鹿の角、食用として絞められたキジの羽根など、通常なら見過ごされてしまう部分にもスポットを当てる。デザイナーの伊藤陽子さんはこう話す。
「原木や原貝は素材から材料へと加工される過程で、規格化された厚みや幅に切り揃えられてしまいますが、市場に出回らない手付かずの部分にこそ、生物ならではの美しさがあるように感じています。森や海からの原素材はとても自由奔放で、一見不揃いに見えますが、削ったり、磨いたりを繰り返すうちに、時を超えて命がつないできた〝必然の美しさ〞が潜んでいることに気がつきます」
伊藤さんの素材選びは、まず見て聞いて触れること。直接現場へ足を運び、ありのままの原素材に触れるところから始まる。生産者からじっくりと話を聞く。細部にわたって観察し、生態を学ぶ。今季は新たに、サステナブルな素材である竹にチャレンジしている。取材時は、まさに新作の制作中。京都にいる竹の生産者と職人のもとへ一緒に向かった。
竹の生産地として風土条件に恵まれている京都。取材した生産者は向日市にある『清水銘竹店』の清水勝さん。代々、竹材業を営み、竹林の適正管理から京銘竹の加工までを手がける、府内でも数少ない銘竹店だ。案内してもらった竹林は、種類によって雰囲気が全く違う。孟宗竹の生い茂る藪は一本一本がどっしりと太く、迫力がある。一方、黒竹と真竹の藪は、しなやかな竹が空まで高く伸び、繊細さと優美さを併せ持つ。伊藤さんが惚れ込んだのはこの2つの竹だ。
命あるものから生まれた有機的な素材を、モダンなジュエリーに。
「清水さんは黒竹の中でも、真っ黒より少し色が混ざったニュアンスのある黒のほうがいいよって言うんです。最初は見方がわからなかったんですが、こうやって生きている竹に触れるうちにその良さがわかるようになってきました」(伊藤さん)
「黒竹は日が入ることで黒くなるから、環境によって色の出方が微妙に違う。私はタケノコのときから一本一本見ているから、それぞれの竹を生かす方法をいつも考えています。伊藤さんのように新しい形で竹を生かしてくれるのは嬉しいですね」(清水さん)
そして、清水さんの竹を使って、伊藤さんのデザインを形にするのが、同じく京都に住む職人の髙波義さんだ。髙波さんは茶道具を作る竹の名工。伊藤さんから渡された図面を基に、わずかなズレもなく仕上げていく。
「伊藤さんのオーダーは0コンマの世界。その形を作るためにはどのような道具が必要か、なければ自分で作るところから始めます。こんな小さなパーツを作ることはあまりないので、いい刺激になっていますよ」(髙波さん)
〈スハー〉は産地も職人も〝日本〞に特化している。国産の素材は扱いにくいものもたくさんあるが、それでもこだわるのは、自分のルーツだから。
「日本にはない素材を海外から借りてきて制作するよりも、自分の内側から溢れ出てくるものをとことん突き詰めることで、結果として外国の方にも伝わるようなものになると思うんです。そんな取り組み方が、世界中の価値のある手仕事を後世につなぐことにもなるように思います」
探究心を持って日本各地の現場を訪ねる。価値が見逃されている素材から美を見いだす作業や、ものづくりが素材や人や地域に導いてくれる偶然は、新たなクリエイティビティの源泉となる。命あるものから生まれた有機的な素材を、モダンなジュエリーに昇華する。命そのものと向き合い、生物たちの息づかいに寄り添う。それが〈スハー〉のものづくりだ。
su Ha スハー
問い合わせ先
info@suha-j.jp
photo : Norio Kidera edit & text : Chizuru Atsuta
※『&Premium』No. 83 2020年5月号「これからの、つくりのいいもの」より