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「前向きに、時代を切り拓いていく心」。キュレーター・林綾野さんが語る、堀内誠一さんが教えてくれたこと。January 24, 2025

1月22日から、東京・立川の「PLAY! MUSEUM」で、「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」が開催される。本展のキュレーションを手掛けたのは、様々な展覧会を企画し、アートライターとして美術書の執筆も行う林綾野さん。林さんの視点で捉えた堀内さんの魅力、そして今回の展覧会で届けたい思いとは。

「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」の模型。第2章「FANTSY」の会場には、高さ3メートルもの巨大な絵本が並ぶ。
「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」の模型。第2章「FANTSY」の会場には、高さ3メートルもの巨大な絵本が並ぶ。

人間の想像力が日々を豊かにしてくれることを信じていた人。

「これまで画家の安野光雅さんの展覧会や、絵本の展示を企画することが多くあり、安野さんと堀内誠一さんがとても親しかったこともあって、『堀内さんの絵本展、原画展を企画してほしい』という声をいただくことが度々あったんですね。そんなときにコロナ禍になり、自分が企画した展覧会が延期になったりして。そのときに堀内さんの作品をまとめて調査したんです」

それが形になったのが、堀内さんの生誕90周年を記念して2022年から全国を巡回した企画展「堀内誠一 絵の世界」。1958年に出版した初の絵本『くろうまブランキー』(福音館書店)をはじめとして、生涯で70冊を超える絵本を残し、「絵本作家の道こそ運命が決めた本命」とも語っていた彼の画業にフォーカスした展覧会だった。

「『堀内誠一 絵の世界』は、堀内さんの創作活動の根本にある、“描くこと”に着目したものでした。絵の原画を初期から晩年まであまねく見せる、そこで堀内さんの絵と向き合って感じたのは、とても同じ人物が描いたとは思えないほどの画風の幅広さ、表現方法の豊かさ。堀内さんが書かれたものやインタビューを読むと、『子どもに寄り添いたい』とよく仰っているんですね。物語にとって適切で、子どもたちに一番よく伝わる形で届けることを追求した結果、様々な画風が生み出された。自分のスタイルに留まらない、それが堀内さんらしさであり、ひとつの魅力だと感じます」

そんな林さんの個人的な堀内作品との出合いはいつ、どのようなものだったのだろう。

「確か小学4年生の頃、『赤いろうそくと人魚』という小川未明の童話集に描かれた挿絵と出合って、どこか幻想的で美しい絵にすごく引き込まれた記憶があります。子どもって、その絵を描いているのが誰かとかあまり考えないじゃないですか。それが幼稚園の頃に家の本棚にあった『ぐるんぱのようちえん』と同じ人が描いていると知ったのは、もっと後になってから。著作『パリからの手紙』や『パリからの旅』を読んで、堀内さんの仕事が線で繋がった。知らず知らずのうちにたくさんの彼の絵に触れて、世界を広げてもらっていたんだなと思いますね」

展示模型を前に話す林さん。「『FASHION』、『FANTASY』、『FUTURE』の3つの『F』で構成する今回の展覧会。3つの展覧会を同時に楽しめるような内容です」
展示模型を前に話す林さん。「『FASHION』、『FANTASY』、『FUTURE』の3つの『F』で構成する今回の展覧会。3つの展覧会を同時に楽しめるような内容です」

林さんが今回の展示を企画するにあたって何度もページを捲った2冊の本がある。

「『父の時代・私の時代 ――わがエディトリアル・デザイン史』(ちくま文庫)は堀内さんの自伝。数えきれないほど何度も読みました。戦後の混乱期に家族の暮らしを支えるために14歳で伊勢丹百貨店の宣伝課で仕事をはじめた堀内さんですが、疎開先から焼け野原となった東京に戻ってきたときに『焼け野原の東京は明るく、何もかも新鮮で美しい風景でした』ということを書いているんですね。全く何もないところだから、何でもできる、どこへでも行けるというのは堀内さんの全ての仕事に通底する明るさ、ポジティブさを感じます。それは『anan』『BRUTUS』などの雑誌作りにも活かされ、新しい時代を切り拓いていくことに繋がっていったんだと思います」

もう一冊は、『父・堀内誠一が居る家 パリの日々』(カノア)。娘の花子さんの視点で語られる堀内誠一評だ。

「堀内さん家族がパリへ移ったのは1974年、花子さんが13歳のときでした。本書で語られるパブリックなイメージとも違う堀内さんの素顔は、自分の娘を子ども扱いするのではなく同格に扱うというか、ひとりの人格としてきちんとリスペクトしている様子がすごく伝わるんですよね。生涯に渡って子どもに寄り添い続けた堀内さんらしいなと思いますし、その眼差しを展示でも表現できればと考えるようになりました」

林さんが本展を企画する際の手引書とした2冊。『父の時代・私の時代 ――わがエディトリアル・デザイン史』はボロボロになるまでページを捲り、新しいものを買い直した。
林さんが本展を企画する際の手引書とした2冊。『父の時代・私の時代 ――わがエディトリアル・デザイン史』はボロボロになるまでページを捲り、新しいものを買い直した。
会場模型を前に。中心に見えるのは『ぐるんぱのようちえん』 (福音館書店) の象、ぐるんぱ。
会場模型を前に。中心に見えるのは『ぐるんぱのようちえん』(福音館書店)の象、ぐるんぱ。
「人間・堀内誠一がすごくリアルに感じられる」と林さんが語る『父・堀内誠一が居る家 パリの日々』。
「人間・堀内誠一がすごくリアルに感じられる」と林さんが語る『父・堀内誠一が居る家 パリの日々』。
月刊絵本「こどものとも」200号を記念して出版された『てがみの絵本』 (福音館書店) でも、作・絵を手がけた。「ページを捲るごとに画風も様々。堀内さんの魅力が詰まった一冊です」
月刊絵本「こどものとも」200号を記念して出版された『てがみの絵本』(福音館書店)でも、作・絵を手がけた。「ページを捲るごとに画風も様々。堀内さんの魅力が詰まった一冊です」
「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」は、4月6日まで開催。
「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」は、4月6日まで開催。

 堀内さんの創作活動を「FASHION」「FANTASY」「FUTURE」の3つの章で振り返る今回の展示。「有山達也さん、設計事務所imaのお二人、三宅瑠人さん・岡崎由佳さんの各組が展示空間をデザインし、3つの堀内誠一展を同時に体験できるところが見どころです」と林さん。
展覧会の詳細についてはこちらの記事から。

最後に、林さんが堀内さんの仕事や言葉、生き方から教わったことについて話を聞いた。

「著作の中で、私たちの頭の中だけで空想していること、想像していること、それは世界に存在していないんだけど、絵を描くことによって存在させられる、ってことを言っているんですね。人間の想像力を信じているとても前向きな言葉で、その姿勢から私も、ビジュアルの力を信じること、それが未来を切り拓いてくれることを教わりました。堀内さんが今に残してくれたものから希望を受け取り、未来へと繋げていく。そんな展示を届けたいですね」

林 綾野 Ayano Hayashiキュレーター、アートライター

フリーのキュレーターとして様々な展覧会を企画するほか、アートライターとして美術書を執筆。「かこさとしの世界展」(2019年)、「柚木沙弥郎 life・LIFE」(2021年)、「堀内誠一 絵の世界」(2022年)など多数の展覧会を手掛ける。主な著書に『画家の食卓』(講談社)、『浮世絵に見る江戸の食卓』(美術出版社)など。

堀内誠一さんの魅力に迫る本サイト内の小特集「THINGS FOR BETTER LIFE」は、以下のリンクからご覧ください。

photo : Kazuhiro Otsuki

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