BOOK 本と言葉。
彫刻家・大竹利絵子さん初の作品集『Hanako』が刊行。February 21, 2023
最初期の作品からアトリエの風景まで、創作の周縁を掘り下げる待望の一冊。
2023年2月、彫刻家・大竹利絵子さんの初となる作品集『Hanako』(torch press)が出版された。
樟や檜、桂などを用いて、彩色を施さず、素木仕上げの木彫作品を制作してきた大竹さん。凜と立つ少女や鳥、動物たちの深遠な眼差しは神秘性を宿し、観る人の心に深く、静かに木霊する。
この本には作家の堀江敏幸さんと神奈川県立近代美術館館長の水沢 勉さんがテキストを寄せており、次のように綴っている。
奥行きしかない世界で、形があるのにないかのようにふるまうことができれば、私たちもひとつのGhostになる。これほど重量のある硬い木の肌理と空間のなかで自身を浮き上がらせる明確なライン取りが認められるにもかかわらず、全体は亡霊のようになって、自分がいなくても輝いていられる世界のありかたを教えてくれる。
堀江敏幸「魂が鳥になるとき―大竹利絵子作品集に寄せて」(寄稿文より)
大竹利絵子の居場所は、作品についても作者についても、内と外とののあわいの、濁点が揺れながら移行する、波打ち際のような、まさにその狭間というべき中間点なのではなかろうか。
水沢 勉「さざめく ざわめく。 ―大竹利絵子の居場所」(寄稿文より)
同作品集では、制作の変遷を辿りながら、最初期となる2006年から2022年までの作品を収録。初めて取り組んだ版画作品や、これまで公開されてこなかったドローイング、さらに制作過程が垣間見えるアトリエの風景をも散りばめながら、創作の周縁を掘り下げた。ディテールまでこだわりぬいた装丁を手掛けたのは、デザイナーの須山悠里さん。カバーを覆う萌えるようなグリーンは、木の奥で密やかに春を待つ生命の存在も想起させる。満を持して、冬の終わりにふさわしい一冊となったのではないだろうか。
東京・銀座の『森岡書店』では、2月26日まで刊行記念展を開催。本書に掲載された木彫の新作や版画作品などが展示されている。ぜひこの機会に、作品が放つ深遠な響きに触れてみては?
BOOK INFORMATION
大竹利絵子『Hanako』
出版社:torch press
デザイン:須山悠里
定価:5,500円(税込)
仕様:270 x 220 mm/152P、上製本
EXHIBITION
刊行記念展 大竹利絵子「Hanako」
会期:2023年2月21日〜26日
会場:森岡書店(東京都中央区銀座1−28−15 鈴木ビル1階)
時間:13:00〜20:00
電話:03-3535-5020
text : Yu Miyakoshi