MOVIE 私の好きな、あの映画。
文筆家、「桃山商事」代表 清田隆之さんが語る今月の映画。『プロミシング・ヤング・ウーマン』 【極私的・偏愛映画論 vol.117】August 25, 2025
This Month Theme“読書の時間”が描かれている。

男性優位社会への勇猛な斬り込み。
性暴力の加害者である「プロミシング・ヤング・マン(前途有望な若き男性)」たちは守られた。では、その被害者となった女性は──?
2021年のアカデミー賞で脚本賞に輝いた本作は、医大生時代に親友ニーナを性暴力事件で失った主人公のキャシーが、加害に関わった者たちと命がけで対峙していく復讐劇です。夜な夜なバーやクラブで泥酔を装い、介抱を口実に下心を向けてきた男たちを懲らしめる――。そんな活動を続けるキャシーはやがて、エリート医大生による事件の真相へと迫っていきます。
女性をまるで“道具”のように利用し、男同士で悪ノリやチキンレースを楽しむ加害者たちの様子は、いわゆる「ホモソーシャル」の典型的な光景に映ります。大学や弁護士に守られる男子学生、傍観者を決め込む同級生たち、被害者に浴びせられる二次加害のまなざし……。キャシーが斬り込んでいくのは、性差別とミソジニー(女性嫌悪)にまみれた男性優位社会そのものです。
物語の序盤、カフェで働くキャシーがレジカウンターで読書をしているシーンが描かれます。それは医大の同級生であり、後に恋仲へと発展していく小児科医ライアンと偶然の再会をはたす重要な場面で、書籍のタイトルには「Careful How You Go」とある。書籍自体は架空のもののようですが、「振る舞い方には気をつけて」とも訳せるこの言葉は極めて示唆的です。
というのも、たとえ性被害に遭ったとしても、「隙のある服装だった」「酔っていたのは軽率だった」などと理不尽なことを言われてしまいがちな女性たちの現状を暗示している言葉にも取れるし、このあと性暴力にまつわる意識や認識の乖離によって、キャシーとの関係に問題を引き起こすことになるライアンに対する忠告とも受け取れるからです。
「この映画に悪人は出てきません。登場人物たちはセックスに関してやや無責任な態度を取る文化の一部にすぎません。なぜ私たちはこういう態度を取るのか、悪い部分を良くするためには自分たちがどう態度を変えていけばいいのか。そういった根本的なものを問うことが重要でした」
脚本・監督を務めたエメラルド・フェネルは、本作のパンフレットでこう述べています。傍観や黙殺、二次加害、被害の矮小化、希薄な人権意識、能力主義、学歴社会、性差別的な法律や慣習、メディアの加担──。性暴力の背景には〈無責任な態度を取る文化〉があり、私たちもまたその一部ではないかと、鋭く問いを突きつけてくるのがこの映画の凄みではないかと思います。


『プロミシング・ヤング・ウーマン』
Director
エメラルド・フェネル
Screenwriter
エメラルド・フェネル
Year
2020年
Running Time
114分
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Blu-ray:¥2,075/DVD:¥1,572
発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
© 2019 Focus Features LLC/Promising Woman, LLC. All Rights Reserved.
*記事公開時の情報です。
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illustration : Yu Nagaba movie select & text:Takayuki Kiyota edit:Seika Yajima