MOVIE 私の好きな、あの映画。
〈YAECA〉企画運営 服部恭子さんが語る今月の映画。『プレイタイム』【極私的・偏愛映画論 vol.112】March 25, 2025
This Month Themeスタイリングを真似したくなる。

コーディネートに込められた人柄が伝わってくる。
ジャック・タチがパリ東部に建設した巨大セット「タチ・ビル」の近未来的な都市を舞台にした本作。ビルが立ち並ぶ大都会・パリにやってきたユロ氏は、面接のためにあるビルを訪れ、その巨大な内部に右往左往します。
そこで洗練されたユニフォームを纏った、無機質なムードの人物たちが登場。建物、家具、車、ひいては街全体がコーディネートされているシーンに惹き込まれます。アナログな手法でこんなにも壮大なアイデアをイメージ通りに描こうとしたことに冒頭から感動が止まりません。
空港でシステマチックに動く人々たちの体型、空間を構成する色や音などが整いすぎていている様子は独特で。ただポーズをとっているだけのCAがいて、ちょっと異様な世界観が描かれています。修道女らしき二人組やタオル交換をしている清掃員など、とにかく可愛いユニフォーム姿にも目が離せなくなります。
さらに観光で訪れた一団が登場。システマティックに動く人々とは対照的に、血の通った人々の登場に物語は徐々に騒がしく展開していきます。柄のスカーフや過剰なオシャレに見える派手な帽子などはお下がりや姉妹で貸し借りしている一張羅のような趣があり、眺めていてどこかホッとするような感覚を覚えます。登場人物たちが愛着をもって身につけている古いもの、彼女たちが放つせわしないお喋りが、映画の中で洗練されていないもののように扱われていてその様がなんだか余計に愛おしく感じられたりもします。
合理性を突き詰めた大都会の大企業では、すれ違い続きで全然会いたい人にも会えず、便利なようで不便なルールが皮肉っぽく、ジャック・タチらしいユーモアで描かれています。モダンに統一された大企業や無駄に豪華なレストラン、馬鹿馬鹿しいものとして描かれているはずの世界もあまりにも美しくて。セリフや表情ではなく、コーディネートと動きで表現される多様な人物像は、映画全体で見るとそのおかしな世界の中にも統一感があり視聴者に終始客観的な目線を導きます。コーディネートに込められた人柄が分かりやすく伝えられていて、「人は見た目」ってほんとだな、とぼんやりと考えてみたりもして。つまりは、着こなしと身のこなしですべて表現しちゃっているということですもんね。ラストシーンでパリを去るバスからの景色も、すべてが美しいのでぜひ見てもらいたい映画です。


『プレイタイム』
Director
ジャック・タチ
Screenwriter
ジャック・タチ
Year
1967年
Running Time
124分
illustration : Yu Nagaba movie select & text:Kyoko Hattori edit:Seika Yajima
〈YAECA〉企画運営 服部恭子
