LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
築45年の家には心躍るものだけをディスプレイ。アートディレクター・髙礒恵子さんの暮らしのルール。February 14, 2025
古い家には人を惹きつける不思議な味わいがあります。その“古さ”を楽しみつつ、自分たちの暮らしに合う部屋に整えたい。DIYで築70年超えの古民家を甦らせたり、築50年の集合住宅をすっきり改築するなど、温故知新を実践した4組の住まいを最新号「部屋と心を、整える」より特別に公開します。
どの視点からも、心地よい眺めの部屋。
「暮らすなら古い家」。それが髙礒恵子さんがマンションを購入しようと物件探しを始めたときの外せない条件だった。今まで暮らしてきたのはすべて古い家。内見5軒目にして早々に決めたというのが、築年数約45年のマンションのリノベーションされたこの部屋。グレイッシュなフローリングに清潔感のある明るい空間は一見古さを感じさせないが、存在感のあるアルミサッシの窓枠などが独特の味わいを醸し出している。「最近にはないタイル張りのマンションの外壁も好きなんです」という髙礒さん。暮らしやすくリノベーションされていながら、新築にはない素材や骨格など、古いマンションならではの趣が随所に垣間見える。
「今まで住んだ家はダークトーンの床で、私の古い家具も自然となじんでいました。白っぽい床の家に住むのは初めてなのですが、真っ白ではないグレーが絶妙で、古い家具をふんわりと際立たせてくれています」
もうひとつの決め手は、玄関から窓に向かって一直線に伸びる抜け感と南向きの窓から差し込む陽光。
「前の部屋は北向きで、植物がうまく育ちませんでした。次は植物が置ける家に住みたいと思っていたので、この日当たりの良さは魅力でした。入居時に購入したヤシの木は、4年で30㎝も成長したんです」
仕事は自宅でのリモートが多く、平日のほとんどの時間を家で過ごす髙礒さんにとって、同じ空間でのオンオフの棲み分けが重要となる。日中、ワークスペースとして使っているのが玄関に近いダイニング。リビングスペースとなる窓側のソファがオフのスペース。向かいの壁一面の棚には、お気に入りのアートやオブジェ、本などが飾られ、飽きることなくずっと眺めていられる。ディスプレイも家具も「すべて思い入れのあるものしか置かない」。卒業制作を交換したという友人の作品、壊れないようにフランスから抱えて持って帰ってきた陶器のキャニスター、座れないけど捨てられない椅子など、それぞれにストーリーがある。髙礒さん自身が年月をかけて大切にしてきたものを包み込む家は、それに匹敵する古さが必要なのだ。
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髙礒恵子アートディレクター
東京藝術大学卒業後〈資生堂〉入社。現在は〈SHISEIDO CREATIVE〉のアートディレクターとして、多数のブランドの広告を手がけている。
photo : Hinano Kimoto illustration : Shinji Abe(karera)text : Naomi Yokoyama (cat)