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毎日、森の自然と出合える。料理家の城田文子さんが暮らす、古い山小屋のような建物。February 27, 2025

旅先で出合った、道具を相棒に。
鳥取の大山の麓の深い森の中に、木々に囲まれた木造の家がある。料理家の城田文子さんの住まいは、昔からこの地に存在していたような佇まいで景色に溶け込んでいた。
「近くに住む友人のひとりが内装を生業にしていて、分譲してもらった土地に家を建てました。家もキッチンも彼の手作り。内装は足場板や神社の古材など、譲り受けた材を張り合わせて作られています」
三角天井や外と室内の境目を感じさせない大きな窓のしつらえが、山小屋の風景を思わせる。
「キッチンに立ち、生い茂る葉の隙間から差し込む光を眺める時間が好きなんです」。そう言って微笑む城田さんは、勝手口から吹き抜ける心地よい風を感じながら、食事の準備をしている。棚板に目を向けると、彼女が集めてきた選りすぐりの道具がさりげなく並んでいた。
「海外に旅すると、必ず鍋を買ってきます。蚤の市で古いものを掘り出したり、専門店でデッドストックのものを手に入れたり。重たいながらも、どうしても連れて帰りたくなるんですよね。やっぱり、道具は使ってみないとわからないですし」
ひと際思い出深いエピソードとして語ってくれたのは、棚板の上から2段目に並ぶ、インドで出合った黒とテラコッタ色の鍋。日本円で1個100円くらいのものだそう。
「帰りの飛行機に乗り遅れそうになりながら必死で買ってきたもの(笑)。使う前に10回ほど炊かないといけない鍋で、使いづらい道具だけど、気に入っています。魚のカレーを作る鍋みたいですが、私はカレーを盛り付ける用に使っていて。ジャムを煮たり、大人数でしゃぶしゃぶしたりするときに使うのは、大きな銅鍋。中国で購入したものです。野菜を水に浸すときにも使っていますね」
道具への愛情と使い込んだ経験の深さ。そこに料理を楽しんできた年輪が感じられる。
「私が目指すのは、素材の味が引き立つ料理。日々作る、料理の幅を広げてくれるのが道具の存在でもあって。なくても大丈夫だけれど、あったら楽しい。そういう、長く付き合えるいい道具はよき相棒ですね」
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城田文子料理家
20歳の頃に料理の道を志す。ヴィーガン料理、スパイスを使った料理にも造詣が深い。自身のアトリエで、不定期で料理とヨガ教室を開いている。
photo : Mitsugu Uehara edit & text : Seika Yajima