INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
古い家を、楽しむ工夫。ブランドマーケティングディレクター・滝沢時雄さん「変わる部屋、変わる自分」。February 10, 2023
2023年1月20日発売の『&Premium』の特集は「楽しく部屋を、整える」。狭い部屋や古い家を自分たちらしく整えて、豊かに、楽しくベターライフを送る人たちを取材しました。
狭さがもたらす落ち着き、古さゆえに感じることができる味わい……、一見するとマイナスに思える点だってアイデア次第で素敵な暮らしを実現するポイントになることが学べる特集です。ここでは、ブランドマーケティングディレクター・滝沢時雄さんの古い家を楽しむ工夫に溢れた住まいを紹介します。
変化する余地をくれた、名建築のリノベーション。
緑豊かな中庭と、端正なコーナーエッジが際立つ建築。滝沢時雄さんが暮らすのは、ヴィンテージマンション好きなら一度は住んでみたいと憧れる集合住宅だ。設計は戦後のモダン・デザイナーズマンションの先駆けとして知られる内井昭蔵だ。
「友人がここに住んでいて、素敵にリノベーションをしている様子を見て、いいなと思っていたんです。建築の美しさ、緑あふれる環境、高台からの眺望も素晴らしくて。人気物件で、空きが出るとすぐに売れてしまうので、いつでも内見できるように近くのマンションに引っ越しをして、チャンスを待っていたんです」
1 年後、念願の売り物件が出た。
「しばらく空室だったせいか、室内はボロボロ。風呂場はカビだらけで、キッチンも薄暗い。でも、リノベーション済みの部屋を見ていたのでひるみませんでした。全体的に日当たりはよかったので、間取りや内装次第で絶対によくなるはずだって」
当時、〈ザ・コンランショップ〉でバイイングを担当していた滝沢さん。リノベーションは、施主と設計士、職人が一緒に家づくりを考える〈ハンディハウスプロジェクト〉を選び、一緒に汗を流した。2DKだった間取りを広い1LDKに、薄暗かったキッチンは窓に向き合うように配置を変えた。リビングの奥まった部分には、おこもり感を生かして、憧れの書斎スペースを作った。
「当時は会社通勤だったので、あまり書斎を使うことがなかったのですが、近年リモートワークになってからは、ここで過ごす時間が長くなりました。住んで10年、今、本当に作ってよかったなと思っています」
書斎の窓辺には山や旅先で拾った石や、〈Shizu Designs〉や〈HOW TO WRAP_〉による石のアートピースが。
小さな窓が付いたトイレのドアは、もともとあったものに塗装だけ施した。古き良き昭和の部屋の雰囲気が気に入っている。
寝室は白を基調にすっきりと。ベッド以外にインテリアは置かず、落ち着ける空間に。
かつて窓を背負うようにしてあったキッチンは窓辺に移動。今はたっぷり光が入る。ステンレスと木がコンビになったキッチンは〈IKEA〉。
以前は手仕事の雑貨などを飾っていたデスクまわり。今は山の本や鹿の角、旅先で拾った石などが並ぶ。
「ここ数年で登山が好きになって。山を歩くと自然の造形の美しさにハッとします。自然をモチーフにしたアートやデザインにも興味が出てきて、部屋の様子も変わってきました」
10年前、冬に葉を落とす中庭の木々を見て、寒々しいなと感じた。でも今は、それも季節のリズムで、自然の美しさなのだと思える。自分の価値観の変化に応じて、見える景色も、部屋のあり方も変わってゆく。
「部屋を作るとき、一般的なセオリーは気にしないと決めたんです。だからそこまで広くない部屋に贅沢にも書斎があったりする。でも、今はよかったなと素直に思えます。今の自分が投影される場所があると、そこからまたアイデアが生まれる。これから先も、どんなふうに変化していくか、自分でも楽しみです」
滝沢時雄 ブランドマーケティングディレクター
デンマークのインテリアブランドの輸入販売代理店でブランディングを担当。自身のライフスタイルブランド〈山と猫〉も展開する。
photo : Kazumasa Harada illustration : Shinji Abe (karera) edit & text : Yuriko Kobayashi