TALK あの人が語るベターライフ。

映像から静かに薫る、青春の匂い。映画監督・山下敦弘さんに映画『リンダ リンダ リンダ_4K』についてインタビュー。August 21, 2025

青春映画の名作として語り継がれる『リンダ リンダ リンダ』。その20年ぶりの4Kリバイバル上映を機に、公開当時は28歳だった山下敦弘監督がいま振り返るのは、背伸びをしながらも駆け抜けた撮影の日々と、その終わりに訪れた寂しさの記憶。「なんとかやり切った28歳の自分に、あっぱれと言いたい」と語る山下監督に、20年の時を経て浮かび上がる、瑞々しい時間の記憶を聞いた。

映画『リンダ リンダ リンダ_4K』映画監督・山下敦弘
©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

徹夜で乗り越えた青春が、名作を生んだ。

「20年ぶりの再上映にあたり、久しぶりに作品を観直して思ったのは、演じたみんなが素敵だということ。あの年頃にしか出せない瑞々しい表情と空気感が映っていて、あの瞬間をきちんと残せていたんだと、ほっとした気持ちになりました。もちろん周りの人たちにたくさん助けてもらいながらですが、28歳にしてはよくやったと思います。あっぱれと言いたいくらい」

文化祭でブルーハーツの楽曲を演奏しようと奮闘する女子高生たちを描いた『リンダ リンダ リンダ』は、監督自身の経験とも重なっているという。

「はじめて映画を撮ったのは、高校3年生のとき。友達と一緒に自主映画を文化祭で上映しようと思い立って。でも当時はなんの技術もなかったですし、編集っていう概念も知らなかったので、文化祭の数日前から毎日徹夜で作業した記憶があります。本当にギリギリで、なんとか文化祭には間に合いました。あのときの無謀ともいえる挑戦と熱量が、『リンダ リンダ リンダ』へとつながっています」

映画『リンダ リンダ リンダ_4K』映画監督・山下敦弘
©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

風呂なしアパートで気づいた、現場の幸福。

今思うと撮影現場もまるで文化祭のようだったと振り返る、山下監督。

「朝7時ごろにスタッフとキャストが集まって準備をし、日が暮れるとホテルに帰り、そして次の朝も同じ時間に集まる——。まるで学生のような健康的な生活を送っていました。撮影している最中は、初めての商業映画だったのこともあり、プレッシャーを感じていて楽しむ余裕はなかったんですが、撮影が終わって当時一人暮らしをしていた風呂なしのアパートに戻ったときに猛烈な寂しさに襲われてしまって。やっとそこで、撮影現場はとても楽しかったんだって気づいたんです。あまりの寂しさに、さっきまで一緒にいた監督補に「今から飲みませんか?」って電話をして呼び出したほど(笑)。現場では監督という立場で気を張っていて、かつ背伸びをしていたので、終わった瞬間に普通の28歳に戻ったんでしょうね。無理していた分、喪失感のようなものも感じました。『リンダ リンダ リンダ』を観ると、その時のなんとも表現しづらい感情もセットで呼び起こされます」

映画『リンダ リンダ リンダ_4K』映画監督・山下敦弘
©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

本作の脚本は、後に映画「ある男」で第46回日本アカデミー賞 最優秀脚本賞を受賞した向井康介さん。監督の大学時代の友人であり、『リンダ リンダ リンダ』以前も後も多くの作品でタッグを組んでいる。

「向井は、いい意味でロマンチストなんです。僕には恥ずかしくて書けないようなセリフを書いてきちんと物語に落とし込んでくれる。自分が脚本も書いていたらはぐらかしちゃって、なんちゃって青春映画になっていたかもしれません。向井が書いたセリフがあったからこそ生まれた大切なシーンがいくつもあります。向井や、撮影の近藤くん(撮影監督の近藤龍人さん)とはまだ何者でもなかった、若い頃からの付き合い。彼らと話していると自分を律するような気持ちにもなれるし、監督ではない素の状態にも戻れる。東京に上京してからはずっと『監督』という立場でいる自分にとっては、ありがたい存在です」

For Better Life
「ベターライフのために大切にしていることはありますか?」

&Premiumが大切にしている「Better Life(より良き日々)」。それを叶えるためのヒントを山下さんに聞いてみました。

「旧友と一緒に映画を観る」:昔からの知り合いである脚本家の向井康介と、撮影監督の近藤龍人とは定期的に連絡を取り合って、その時話題になっている映画を一緒に見に行ったり、飲みに行ったりしています。彼らとあれこれ言い合っているときは、自分が背負っている「監督」という肩書きをそっと下ろせて、心が軽くなります。

Movie Information『リンダ リンダ リンダ 4K』

映画『リンダ リンダ リンダ_4K』ポスタービジュアル

2005年に製作した青春映画「リンダ リンダ リンダ」の公開20周年を記念して4Kデジタルリマスター化。ぺ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織(Base Ball Bear)らが出演する本作は、高校生活最後の文化祭で「ザ・ブルーハーツ」のコピーバンドをすることになった少女たちの奮闘を描く。

監督:山下敦弘
出演:ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織(Base Ball Bear)、三村恭代、湯川潮音、山崎優子(新月桃花/RABIRABI)、甲本雅裕、松山ケンイチ、小林且弥
配給:ビターズ・エンド 
©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
2025年8月22日(金)  新宿ピカデリー、渋谷シネクイントほか全国ロードショー

→ bitters.co.jp/linda4k

山下敦弘監督

山下 敦弘Nobuhiro Yamashita

映画監督。愛知県出身。大阪芸術大学映像学科卒業。文化祭でブルーハーツを演奏しようと奮闘する女子高生らの青春を描いた『リンダリンダリンダ 4K』のリバイバル上映が8月22日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。

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