INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
“自分ルール”で整えられた、暮らしを楽しむ部屋。フォトグラファーの須藤敬一さんの住まいへ。『&Premium』No. 75 2020年3月号より立ち読み / January 23, 2020
2020年1月20日発売の『&Premium』最新号の特集は、「暮らしを楽しむ部屋に、整える」。ここ何年か、一年の最初の号は“整える”シリーズをお届けしていますが、今回は、暮らしの拠点になる“入れ物”としての部屋と、その中身の機能性、さらにはそこにいる時間の楽しさにフォーカスした一冊です。自分のルールで整えている15組の人たちを訪ね、「収める」「飾る」の作り方を建築家と考えた4つの家と、その工夫を見せてもらいました。
ここでは、「家は箱庭」と語るフォトグラファーの須藤敬一さんの、好きなもので視界を埋めた部屋を紹介します。
家は箱庭。好きなもので視界を埋める。
見つけて、買って、飾ったものの集合体が、自分らしさになってゆく。
「ミニマリストとはまったく逆ですね。僕は余白があると埋めたくなってしまうんです」と笑うのはフォトグラファーの須藤敬一さん。夫婦と 子ども2人で住まう家の広々としたリビングは、その言葉通り好きなもので埋め尽くされている。必要最小限ではなく、〝不必要最大限〞とでも言うべきか、雑貨、アート、オブ ジェ、思い出の品……ディスプレイ されているのは、個性豊かなデザイ ンの非実用品ばかり。代わりに生活 用品は、扉の付いたキャビネットに 収納しているというから徹底したものだ。視界の中に、持ち主のお気に入りがひしめき合っている。
「心が惹かれるものを買って並べることが趣味なんですよね。実用性や機能には頓着しません。大人になって、役に立たないけれど個性のあるものが好きという本性が開花したんでしょう。車と時計、みたいな同世代男子の多くがハマってきたことの代わり、かもしれません」。妻のまどかさんも好みは共通。夫がネット や海外出張でせっせと買い集めたものを一緒に配置したり、横にグリーンをあしらって、さらにスペースを 埋めるのを手伝う。ふたりとも、ブラインドから朝の光が入るとき、お気に入りが並ぶリビングを眺めるのが一番好きな時間だという。
引っ越してきたのは2018年5月のこと。結婚前から親しんでいた街で、最初は家族4人の住むマンションを探していたが、たどりついたのは築24年の2階建て住宅だった。「夫婦とそのご両親が住んでいたといいますから、ファミリー向けでなく最初から大人が住むようなつくり。そこが良かった。1 階に和室があり、2 階にはヘリンボーンのフローリングに贅沢に木製建具を使ったリビングがあって。階段に踊り場があるなんて、今の住宅ではあまり見かけませんからね」。収納スペースは前の持ち主が十分に確保していた。腰高窓 の下はキャビネットに、キッチンも 吊り戸棚が3方を囲む。ただし、飾ることを楽しむ夫妻にとっては、ちょっと〝しまいすぎ〞に思えた。
「見せるスペースが欲しくて、書棚 やキッチンは作りつけていた扉を取り外す形でリフォームしました」。 この家に住んでから、部屋の余白を 埋めてゆくアイデアが止まらない。 ファネットチェアの隣にパリの蚤の市から背負ってきたスクビドゥチェアがあったり、子どもの絵とオブジェとグリーンが重なり合っていたり。 にぎやかだけれど、全体にどこかまとまりがある。「雑貨に限らず物が大好きだけれど、目利きの自信があるわけではないんです。ひとつひとつに価値があるものよりも、無名有名を問わず、自分がそこに欲しいものを空間に置いてみる、その繰り返しですね。集合させて飾ったときに、自分らしさが出るのではないかと思います」と須藤さんは言う。今はモビールやペンダントランプで、空中もアレンジしようとしている。「このコーナーに何か欲しいな、と考えてばかりいます。ずっと完成しない 箱庭を作っているようなもので、家にいる時間が楽しいです」
須藤敬一 フォトグラファー
Keiichi Suto
女性誌を中心に、ファッション、ライフスタイルのジャンルで活躍。ライフワークとしているウエディングフォトでは、400組以上のカップルを撮影した。
2020年1月20日発売の『&Premium』最新号の特集では、ここで紹介した須藤さんを含む15組の、自分のルールで部屋を整えている人たちを訪ね、その暮らしを紹介しています。
photo:Keiichi Suto edit&text:Azumi Kubota