TRAVEL あの町で。

新旧が入り交じり、文化の薫りが漂う温泉街。甲斐みのりさんが語る、兵庫県・城崎。July 22, 2024

繰り返し訪れているからこそ知っている、季節によって変わりゆく景色。いつも変わらないあの店、必ず買って帰るお土産、ふだんの町並み。旅好きのあの人が語る、何度も足を運んでいる町とその魅力とは。

宿は『三木屋』、外湯は『一の湯』。湯上がりにはおやつを。

新旧が入り交じり、文化の薫りが漂う温泉街。甲斐みのりさんが語る、兵庫県・城崎。
文豪の足跡をたどるのもまた一興。地元の人たちに交じり、『一の湯』をはじめ、いくつもの立ち寄り湯へ。

 志賀直哉の短編小説『城の崎にて』で知った城崎温泉へは、関西で過ごした大学時代に、東京から熱海へ行く感覚で初めて旅しました。その後、家族ぐるみで仲のよい友人の漫画家・ひうらさとるさんが移住したことをきっかけに、かれこれ10回以上は訪れていて、数年前には旅好きの両親を案内したことも。宿泊は老舗旅館の三木屋で。登録有形文化財に指定されながら、モダンに改装された佇まい。ロビー横にあるブックライブラリーも、文学好きとしては見逃せません。城崎では旅館で浴衣と下駄を借りて、町の中にある公衆浴場をまわる〝外湯めぐり〞が一般的。なかでも好きなのは一の湯で、洞窟風呂もおもしろいし、外観だけでも風情があります。湯上がりには昔ながらの食堂ちから餅でソフトクリームをどうぞ。自然派ワインと地元食材を使った料理を楽しめる『OFF KINOSAKI』では、若者が昼から集い賑わっていますし、創業80年以上の老舗鮨処 をり鶴では、海の幸から但馬牛の肉鮨まで味わい尽くすことができます。城崎温泉街は、徒歩で一周できてしまうくらいコンパクトな町。古きよき時代の面影を残しながら、移住者や若手が営む店も増えてきて、そのコントラストがすごく楽しい。旅行者にも優しく、誰でも受け入れてくれる懐の深さも感じて、とても居心地がいいんですよね。


兵庫県・城崎
Kinosaki_Hyogo
兵庫県北部の日本海に面した、関西でも有数の温泉街。奈良時代から栄え、開湯1300年以上。町中に点在する6 つの外湯(外の共同浴場)が魅力。京都駅から特急きのさきで城崎温泉まで約2 時間30分。

甲斐みのり Minori Kai
文筆家・エッセイスト
旅、手みやげ、クラシック建築などを主な題材に執筆を行う。和歌山県田辺市や静岡県富士宮市など地域の観光案内冊子も手がける。著書は『愛しの純喫茶』(オレンジページ)など50冊以上にのぼる。

illustration : Naoya Sanuki text : Shoko Matsumoto

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