MOVIE 私の好きな、あの映画。
映画監督・奥山大史さんが語る、ルーカス・ドンが教えてくれたこと。「別れの先に、きっとあるもの」。December 23, 2024
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癒えない傷に寄り添ってくれることが、救いとなる。
2023年の日本公開時、奥山大史さんがすぐに『CLOSE/クロース』を観に行ったのは、前年のカンヌ映画祭でいち早く観てきたという複数の友人知人から「絶対に好きだよ」とすすめられたことが大きかった。「恵比寿ガーデンシネマで朝イチの回を観終わったあと、しばらくガーデンプレイスをぼーっと彷徨ってしまったくらい、よかったんです。本当に、よかったんですよねえ……」と、当時の気持ちを未だ鮮やかに噛み締める。
ルーカス・ドンと奥山さんは年齢が近く、作品数も2本と、何かと共通項がある。とりわけ『CLOSE』と、奥山さんが監督した『僕はイエス様が嫌い』は、二人の少年の友情と、その悲しい行く末というプロットも相通ずる。しかしもっと大きな意味で、映画で描きたいことが「自分と近い」と、シンパシーを感じたのだ。
「ドンの1作目『Girl/ガール』も本気で痛みを描いた大好きな作品ですが、主人公の強さには少し距離を感じました。それが『CLOSE』で一気に引き寄せられたのは、〝別れ〞が描かれていたから。僕はずっと、〝別れがあったとしても、そこから学べることがきっとあるはず〞と思ってきたし、映画監督としてもそこに向き合って作品を作ってきたつもりなので」
その原点には、友人との死別という、自身の少年時代に大きく傷ついた出来事がある。それは初めての、身近な人との別れだった。
「『イエス様』は、当時の自分の心情を追体験しながら弔いの気持ちも込めて作った感覚があります。それを『CLOSE』にも感じたんです。別れは、辛い。だからこそ、そこからは何かしらの学びや救いがあると思いたい。でも自分はまだ、そう信じきれていない気がしているんです。対して『CLOSE』がすごいのは、別れのその後をしっかり描いているところ。むしろ、そちらに重きを置いています」
傷ついた少年が、それを乗り越え、成長していくところまで見届ける。それが作品のなかにしっかり刻まれているのが、「映画として素晴らしく、尊敬します」。それが大切な人との死別であっても、人間関係のこじれによる決別であっても、別離というのは概して怖く、できることなら逃げてしまいたい。でも、すべてを避けることはできないのだ。
「だからこそ、向き合わなくてはならないという感情も募るんだと思います。もし自分が映画を撮ってなかったとしても、そういう映画には触れたくなるだろうし、そうした映画を作る人にきっと共感していたと思う。もちろん、いろんな映画があっていいと思っていますが、僕が好きな作品のひとつは、自分の癒えていない傷に寄り添ってくれるようなもの。そういう映画に出合えると、救われます」
ただ、そうした映画との出合いによって反対に、新しく傷ができたり、古傷がよけい深くなったりしてしまうことも。
「自分も実際、そういう経験はあります。でも、それまで視界に入っていなかった人の痛みを知ることができる機会だともいえるので。それも含めての映画体験だと思っています」
遊園地のアトラクションのような、刹那的に感情が大きく動く映画だってもちろん楽しい。でも「それとは対極にある、すぐには感情処理ができないような、長く余韻の残る作品も必要です」と奥山さん。映画監督としても、いち鑑賞者としても、「こういう映画があるかぎり生きていける」と思わせてくれる、そんな作品が。
奥山大史 Hiroshi Okuyama映画監督
1996年生まれ。『僕はイエス様が嫌い』(2019年)がサンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞。『ぼくのお日さま』(’24年)はカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に正式出品され、9月に公開されたばかり。
photo : REX / AFLO text : Mick Nomura(photopicnic)