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〈IDÉE〉 ディレクター 大島忠智さんが語る今月の映画。『ぼくの伯父さん』 【極私的・偏愛映画論 vol.122】January 25, 2026

This Month Theme住まいの整え方にスタイルを感じる。

〈IDÉE〉 ディレクター 大島忠智さんが語る今月の映画。『ぼくの伯父さん』 【極私的・偏愛映画論 vol.122】

生活の温度を感じさせる空間が、語りかけること。

1958年にフランスで制作された、ジャック・タチ監督・主演の映画『ぼくの伯父さん』は、私がインテリアにまつわる仕事に興味を持つようになる、ひとつのきっかけとなった作品だ。大学時代、図書館のライブラリーに並ぶビデオテープの中で、偶然この映画と出合った。

当時の私は、ベレー帽に〈アニエスベー〉のボーダー、〈エルベシャプリエ〉のリュックを愛用する、フランスのカルチャーに強く憧れた“フレンチ狂”(笑)だった。フランス語で「Mon Oncle」と書かれたその表紙に惹かれ、迷わず手に取ったことを今でもよく覚えている。

映画の中では、何気ないフランスの日常風景を背景に、対照的な二つの住まいが描かれている。主人公ムッシュ・ユロが暮らすのは、まるで迷路のような昔ながらの古いアパート。一方、義弟一家はモダンな一軒家で生活している。

ユロのアパートには、使い込まれた家具や食器が並び、素朴ながらも生活の温度を感じさせる空間が広がっている。それに対し、義弟の家は、整えられた広い庭に洗練されたインテリア、最新の設備が備えられた贅沢な住まいだ。

学生だった当時、チャールズ・イームズに代表されるアメリカのミッドセンチュリー・デザインが世界的に再評価され始めており、映像を通して当時のフランスのモダンデザインに触れられたことは、純粋に嬉しい体験だった。しかし同時に、この映画に登場するモダンな家が、必ずしも「心地よい住まい」として描かれていないことにも気づかされる。

無機質でどこか緊張感のあるその空間は、暮らしの中に住む人の人柄や感情が見えにくく、住人が心からくつろいでいるようには映らなかった。

この住まいの対比は、いかにもフランス映画らしいシニカルな演出でありながら、「本当の豊かさとは何か」を静かに問いかけてくる。日々のささやかな出来事の中に喜びや楽しさを見出すユロと、贅沢によって豊かさを得ようとする義弟一家。けれど、画面越しに伝わってくる幸福感は、明らかにユロの方が大きい。

豊かさは、お金だけで得られるものではない。自分なりの価値観を持ち、前向きな意識で日々を重ねていくこと。その積み重ねこそが、本質的に豊かな暮らしへとつながるのだと、この映画は教えてくれた。

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パリの街並みやインテリア、ファッションなど、フランスの古き良き時代の空気を映し出した映画『ぼくの伯父さん』。監督・主演を務めたジャック・タチのさりげないユーモアと、映像に寄り添う音楽が心地よく重なり、何度観てもフランスらしいエスプリを感じさせてくれる作品です。
Title
『ぼくの伯父さん』
Director
ジャック・タチ
Screenwriter
ジャック・タチ
Year
1958年
Running Time
120分

illustration : Yu Nagaba movie select & text:Tadatomo Oshima edit:Seika Yajima


〈IDÉE〉 ディレクター 大島忠智

インテリアブランド、〈IDÉE〉のディレクター。1998年『IDÉE』入社。飲食マネージャー、広報、バイヤーを経て、現在はブランドのディレクションを担当している。インタビューウェブマガジン「LIFECYCLING」と音楽レーベル〈IDÉE Records〉の企画・運営にも携わる。また、『無印良品』のギャラリー「ATELIER MUJI」の企画展示も手掛けている。

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