MOVIE 私の好きな、あの映画。
極私的・偏愛映画論『ミス・ポター』選・文/伊藤葉子(『Tea Time』 編集長〈333DISCS〉代表) / February 20, 2018
This Month Themeお茶の時間に心安らぐ。
ロンドンと美しい湖水地方を舞台に描かれる、ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターの伝記映画。
結婚が女性の幸せで、上流階級女性の社会進出なんてとても考えられない、封建的なヴィクトリア時代。親が次々に持ってくる縁談を、30歳過ぎても断り続けたミス・ポターは、動物や自然を愛し、絵を描き続け「絵本を出版したい」という強い信念でいくつもの出版社を回ります。そしてそこで出合ったノーマンと、絵本作家として成功して行く半生が、笑いあり涙ありで描かれています。
私はピーターラビットの作者がどんな人かを知らず、「新宿ガーデンシネマ」で鑑賞したのですが、あの時代に、夢を実現する為に努力を惜しまず行動しつづけたポターは、現代の女性から見てもとっても輝いていました。そしてこの映画ではじめて、ピーターラビットのお父さんがミートパイなっていた! という衝撃の事実を知ったり(あとでピーターの家系図を見て2度びっくり)。
紅茶、ティーフーズ、陶磁器、インテリア好きの方にはさらに見所が満載で、ノーマンの家のコンサバトリー(温室)でのアフタヌーンティーはとくに素敵。
ノーマンとの恋は悲しい結果となりますが、その後移り住んだ湖水地方で、大好きな美しい自然に救われたポターは、乱開発目前の広大な土地を守るために、本で得た収益で土地を購入していきます。ポターの遺言に従って、所有したすべての土地はナショナル・トラストに寄付されました。そのおかげで100年以上経った今でもピーターラビットに描かれた当時の世界が広がっています。動物や自然と共生するポター、余談ですが「Bunkamura」で行われた「ビアトリクス・ポター 生誕150周年ピーターラビット展」で、きのこのスケッチが大変詳細に描かれていたのも印象的でした。
クリスマスにオルゴールに合わせてダンスをするシーンでノーマンが歌う「When you taught me how to dance」。そしてエンドロールでケイティ・メルアが歌う「When you taught me how to dance」で、悲しいけど、じんわりと感動に包まれる、心が安らぐ映画です。