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グラフィックデザイナー・ 脇田あすかさんが語る今月の映画。『わたしはロランス』【極私的・偏愛映画論 vol.109】December 25, 2024

This Month Theme愛することを知る。

離れても、別れても、愛し続ける。

 『わたしはロランス』を見たのは22歳のときだった。そのときよくわからなかったフレッドの気持ちが、いま十年越しに、痛いほど理解できる。

 恋人のロランスから“女として生きたい”と、心と身体の性の不一致を告げられたフレッドは、戸惑いながらも、その思いを受け入れる。ロランスにメイクの仕方を教え、ウィッグを買い、女の姿で共に外食をし、不躾な他人の反応に怒り、声をあげる。できる限りのことをして、それでも、フレッドが愛したのは異性としてのロランスであることは覆せず、だんだんとすれ違ってゆく。ロランスが女性としてしか生きられないことと同じように、フレッドが異性愛者であることは変えられない。新しいパートナーができてからの話も含め、この映画では十年間に及ぶ2人の関係が描かれている。

 当時のわたしは、フレッドがロランスのことを離れても尚、別れても尚、愛し続けている(ように見えた)ことが理解できなかった。20代のころの、愛の在り方を理解していなかった自分は、埋めようのない溝がある他人とは即刻縁を切るしかないと本気で思っていた。

 現在32歳を迎え、わたしの隣には愛するパートナーがいる。相手がもし、これまで過ごしてきた自分は、自分を偽っている姿だったと、本当の自分ではないのだと告げてきたら。戸惑い、悲しみ、怒り……それでも、ただ、隣にいたいと感じる。全く理にかなっていない判断だけれど、きっとフレッドと同じように、一緒にいられる形を模索するだろう。うまくいかないであろう結末を本心では感じていても。

 この映画では、2人は結局すれ違い、激しく口論し、一緒にはいられなかった最終地点が描かれている。うまくいかないことばかり記憶に残るけれど、これが愛し合っている2人の話ではなくて何なんだろうと思う。
安心できる場を与えたいと思うこと、その人のためなら火がついたように他人に怒れること、自分の立場を忘れてそばへ駆けつけてしまうこと、望むものは何でもあげたいと心から思っていること。

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喧嘩のシーンはたくさんありますが、全く憎しみは感じない。物語だけでなく、ハッとするような光と影の眼差しや、白昼夢のように突然比喩的な表現が出てくるシーン、そしてどこを切り取っても絵画のように美しく描いている。話としては重苦しいばかりになってしまいそうなところだが、映像の印象もとても強く、全くそれを感じさせないあっという間の時間でした。
Title
『わたしはロランス』
Director
グザヴィエ・ドラン
Screenwriter
グザヴィエ・ドラン
Year
2013年
Running Time
168分

illustration : Yu Nagaba movie select & text:Asuka Wakida edit:Seika Yajima


グラフィックデザイナー 脇田あすか

1993年生まれ。東京藝術大学デザイン科卒業後大学院を修了、その後コズフィッシュを経て独立。あらゆる文化に対してデザインで携わりながら、豊かな生活をおくることにつとめる。

instagram.com/wakidaasuka

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