MOVIE 私の好きな、あの映画。
極私的・偏愛映画論『ジプシー・キャラバン』選・文 / 鈴木里美(『OZ VINTAGE』オーナー) / June 25, 2019
This Month Themeひとり時間の楽しみを知る。
自分について考えるときに、ふと思い出すドキュメンタリー。
古着屋を営む私は、店頭でたくさんの方と接する時間が多い一方で、ひとり静かに作業をする時間が同じくらいある。また買い付けで海外を訪れたときには、特に夜の運転中やモーテルで過ごす深夜に自分について考える時間が多くなる。毎回初めて行く慣れない場所ではさまざまな障害に遭遇するたびに、コンプレックスを感じて弱気になってしまうことがどうしてもあり、孤独を感じることも少なくない。そんな私が、アメリカという人種多様な国での買い付け中にふと思い出すのが、映画『ジプシー・キャラバン』。
それは、古いもの、特に民族衣装に惹かれて古着屋で働き出した私にとって、『ジプシー・キャラバン』という映画は、音楽や服のルーツを知るための貴重な情報源でもありました。映画はとてもシンプルな内容でインド、スペイン、ルーマニア、マケドニアなど4つの国の5つのジプシーバンドが 6週間をかけて北米の諸都市を回る様子を追いかけたもの。出演者それぞれのルーツやキャラクターが、普段の生活ともに映し出される生々しいドキュメンタリーだ。
それぞれその国を代表する有名アーティストばかりではあるが、なかでもルーマニアの首都・ブカレストの南東にあるクレジャニ村のジプシー(ロマ)バンド、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスは、映画『耳に残るは君の歌声』やヨウジヤマモトのコレクションに登場するなど、知名度も高く、彼らの表情までが“芸術的”といえるおじさま達による人気バンド。バンドの長老的存在のニコライのよれよれのファッションとバイオリン技術のギャップがたまらなくかっこいい。
彼らは自身をジプシーではなく「ロマ」と呼称している。陽気で賑やかに、全力で演奏している音楽は、叫びのように感じられる。ロマ同士でも言語や顔立ちも異なっている。共通しているのは、自分たちのルーツへの誇りだ。そしてみんな、自分の人生においてなにが幸せかを知っているから、迷いがないように見えた。その生き方を知ったとき、服はファッションとしてだけのもの、音楽を娯楽としてしか捉えていなかったことに気付かされたような気がした。
それから小さな誇りももたずに仕事をすることが勿体ないと感じるようになった。趣味や考え方が違う人からも何かしら影響を受けることも多くなった。好きなものをもっとたくさん見て、気持ちのままにその魅力を伝えてみたいと思ってお店を始めたいまは、少しだけ共通点があるような気がして、またこの映画を思い出す。