INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
築48年の低層集合住宅に新しい物語を。映画監督たちの食住一体のシェアハウス。May 25, 2025
住まいに対する満足度は? と聞かれたら、どう答えますか。不満をあげればキリがないかもしれませんが、狭いけれど心地よくて自分らしい、古くてもくつろげるように工夫する、そんなふうに整えられたなら、それこそがBette Lifeではないでしょうか。収納がほぼなかった家と徹底的に収納を考えて建てられた家、それぞれの整理整頓術から、昭和を感じる古い一軒家のDIY改装記録まで、たくさんの実例を集めて一冊にまとめた&Premium特別編集 「住まいを楽しく、整える」。このMOOKから、3名の映画監督が住むシェアハウスでの暮らしについてWEBで特別に公開します。
暮らしと映画づくりを軽やかに営むメゾネット。
建物全体にゆとりがあり、抜けのいい屋内には独特の浮遊感がある。1970年代に計画された低層集合住宅。緑地のある共有デッキを中心に、メゾネットタイプの住居をゆったりと配置したつくり。
住居は独立性の高い三層の立体構造で、3階はリビングダイニングの“パブリックゾーン”、2階が玄関、和室と洋室の“ニュートラルゾーン”、1階は寝室2部屋と浴室の“プライベートゾーン”として設計されている。
各フロアを螺旋階段が結ぶ。ここで、穐山茉由さん、篠田知典さん、川北ゆめきさんが、職住一体の共同生活を始めたのは昨夏のこと。
3人それぞれが独立して作品を手がける映画監督。2018年開催の映画祭に出品した“同期”として親しくなった。京都に住んでいた篠田さんが拠点を東京に移すなど、それぞれのタイミングが合い、シェアハウスを探すことに。
「編集作業のためのPCデスクが3台と、機材を置く仕事場、それぞれの個室、共有スペース、という広さが条件。なかなか満足いく物件がなくて。ここに巡り合ったときはテンションが上がりました」と川北さん。内見時、螺旋階段が嬉しくて、穐山さんと川北さんとのふたりで駆け上がったことを振り返る。篠田さんも大賛成。川北さんのペットのオカメインコと桜文鳥もメンバーに加わった。
3階は、正方形のバルコニーに面してL字形のつくり。一方はカウンターキッチンに、椅子とテーブルを持ち寄って広々と座れるようにしたダイニング。もう一方にはカーペットを敷いて、プロジェクターとスクリーンを設置した。それぞれの作品づくりを手伝いながら、当番制で夕食を作り、食卓を囲む。たわいない話をする。映画づくりの仲間も頻繁に訪れる。仕事と生活が混じり合う共有スペースの3人の空気は、いかにも和やかで楽しげだ。
「お互い年代も離れていて、性別も違っているのが喧嘩にならない理由かもしれません。監督という立場には独特の孤独があって、それを分かち合える気がするのです」と穐山さんは言う。「先日、篠田くんがプロデュースする映画のロケをこの家で行い、3人のユニット『沼袋シネマ』として初めて協力した作品が完成しました。映像になってみると、改めていい家だと思いましたね。螺旋階段も、その頭上の丸い天窓も、今の家にはないどこか変なところがあるんです」
この家は、建築当初の専門誌の記事でこう評されていた。「細部にまでデザインの感覚が行き届いていて、公営住宅や巨大マンションには見られない小粋な色気の匂い立つような好作品であった。それでいて作品と呼ぶにはふさわしくないような無名性の雰囲気も身について」いる、と(田巻博道『住宅生産 自由競争の旗手たち』都市住宅7810号より)。
押しつけがましさのない美しさは年月を経ても古びず、感性の豊かな住まい手たちの心に触れたようだ。「職」と「住」だけではない、新しい物語や関係性が営まれる、軽やかな器になっている。


穐山茉由 篠田知典 川北ゆめき
Mayu Akiyama, Tomonori Shinoda, Yumeki Kawakita映画監督ユニット「沼袋シネマ」
2021年から映画づくりのユニット活動をスタート。2023年秋に穐山監督作品『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』公開。
photo : Ayumi Yamamoto edit & text : Azumi Kubota