MOVIE 私の好きな、あの映画。
極私的・偏愛映画論『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』選・文 / わたなべろみ(イラストレーター) / April 25, 2019
This Month Theme習慣が暮らしを作る。
自分の庭から摘んできた花を部屋に飾るという習慣。
海外へ行くと、必ず植物園へ行きます。「植物園が目的で海外へ行く」と言っても過言ではないくらい。花の形状、質感や色使い、植えている植物のコンビネーションセンスが、その植物園によって違うので面白い。一日中、ひとりでいても全く飽きない。季節によって咲く花も変わるので、同じ庭が全く違う庭になります。秋に行ったロンドンの「キューガーデン」は、ペールピンク、レモンイエロー、モスグリーンやベージュ、薄紫など色々な種類のススキが一箇所に植えられていて、その淡い色合いが風に揺れて、とても美しかった。
今まで訪れた「キューガーデン」「コペンハーゲン植物園」、アントワープ近郊の「カルムトハウト植物園」もそれぞれ好きなのですが、映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』に出てくる彼の庭にズキューン! ! とやられてしまった。恋に落ちた。庭に。
この庭をデザインしたのが、オランダのランドスケープデザイナー、ピエト・オウドルフ。ドリスは庭からデザインのインスピレーションを得ているそう。その後、ピエト・オウドルフのドキュメンタリーも観に行きました。余談になりますが映画は、植物園のデザイン画から始まり、ニューヨークの「ハイライン」やシカゴの「ルーリーガーデン」、イングランドの「ハウザー&ワース・サマセット」など、各国の庭をどのようにデザインしたか、自然に見えるように緻密に計算された庭の四季折々を映像と共に見せるもので、植物園好きにはたまらない映画でした。植物それぞれの個性を熟知していて、「どの時季に咲いて枯れるか」「高さはどれくらいになるか」「どこに何株植えるか」など「ひとつの庭ができるまで、これ程の労力がかかっているのか……」と知れば知るほど、ボタニカル・ガーデンの世界は奥深い。また、朽ちていくものの美しさを語るオウドルフも素敵でした。
近年は、ドリス自ら庭の設計を手がけていて、休暇には外国の屋敷や庭園を見にいくそう。ピエト・オウドルフのドキュメンタリーを観ると分かりますが、ドリスの庭は、既に彼のセンスが溢れた庭になっています。映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』では、ドリスとパートナーが、庭の花を摘んで、部屋に飾ります。建物や庭園、インテリアも素晴らしく、それだけでもため息ものですが「自分の庭から摘んできた花を部屋に飾る」という習慣が、なんとも優雅で羨ましい。コレクションシーズン中の多忙なふたりが美しい屋敷でゆったり過ごす、緩急ある暮らしが興味深く、感じ入るものがありました。