MOVIE 私の好きな、あの映画。
極私的・偏愛映画論『ダウントン・アビー』 選・文 / 武内由佳理(「TEALABO.t」主宰) / December 25, 2021
This Month Themeお茶とおやつを楽しみたくなる。
英国らしいティータイムの風景が心に残る。
胸に迫るオーケストレーションからはじまる英国貴族一家に纏わる物語。20世紀初頭の歴史を背景に、階上の伯爵一家では相続問題、上流社会の愛憎渦巻く人間関係やロマンスが交錯し、階下では、邸宅に仕え働く多くの使用人たちの仕事ぶりや人間模様が細やかに描かれる。それぞれの立場で仕事に誇りを持ち、真っ直ぐな眼差しで労働する使用人たち。
ワインリストを確認する執事、階上で優雅にくつろぐ貴族の背後でスマートに働き、階下では銀器を磨き靴の手入れをする下僕。また階上では着替えの世話をし、階下ではドレスのお直しを縫うメイド。そして階上の料理に腕を振るう料理婦長。それぞれの地位で任された仕事は多岐に渡り、行ったり来たり大忙し。愛すべきすべての登場人物はすぐ近くにいる誰かに似ていているような気もしてくる。
階上と階下、どちらでもお茶のシーンが何気なく頻繁に登場し、想像を掻き立てる。階上ではティーサンドウィッチやヴィクトリアケーキが並び、シルバーポットが保温器にセットされ、伯爵も自らポットからお茶を注ぐ。なんとも英国らしいシーンでぐっとくる。
さてそのあいだが束の間の使用人のティータイム。階下では持つ手がプルプルとしそうなくらいたっぷりと大きなブラウンベティのポットから、またたっぷりとしたティーカップになみなみと注がれる。各々残っている仕事を進めながらおしゃべりをしたり、グチをぶちまけたり。その階下の時間がなんとも良い。おしゃべりが過ぎて事件が起こることも多いけど……。
物語の普遍的な面白さは長編ドラマから脈々と繋がっていて、本作では時代の流れとともに変化しながら成熟していく。邸宅内の使用人が一致団結して大事なミッションに挑む。
階下の日常と階上の非日常感。長編ドラマから本作にかけて、英国貴族の習慣、伝統、法律。そして、当時の社会情勢や諸国との関係、戦争にともなう貴族の経済状況——過渡期のイギリスの歴史を垣間見ることができる。
年末年始の休暇もまもなく。ポットにたっぷりの紅茶を淹れ、英国菓子をいただきながら、長編ドラマと併せて様々な視点で鑑賞してほしい。