INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
好きなものをすべて、手の届くところに。ヘアサロンオーナー・本山聖子さんの狭くて、心地のいい部屋。February 06, 2022
2022年1月20日発売の『&Premium』の特集は「居心地のいい部屋に、整える」。狭いけれど落ち着く、古いからこそ趣がある、物が多くても、収納が無くてもときめく……。一見するとマイナスに思える要素も、アイデア次第でプラスに変えられることを、素敵な住まい手の皆さんに教わりました。ここでは、ヘアサロンオーナーの本山聖子さんの狭くても心地のいい部屋を紹介します。
"私にしっくり”がいちばんの幸福感。
新幹線が停まるターミナル駅から その家までは、緩やかに傾斜が続いていた。県内では標高が低いほうらしいが、それでもずいぶん上ってきただろうか。敷地にそびえ立つモミの木が見えてきた頃、また少し空気が薄くなったように感じた。
美容室『Kanade(カナデ)』を営む本山聖子さんの住む家は、遠くの山まで見渡せる高台にあって、さらに居住スペースは2階。玄関のドアを開けたらすぐ目の前に階段が現れ、上るとロフト付きのリビングに着く。南向きの窓から午前の光が差し込む部屋で、黄色やオレンジ、春を呼ぶ色合いの花がふんわりと揺れていた。たくさんの本や雑貨は、重なり 合い、肩を寄せ合って並ぶ。
「リビングは好きなものを好きなようにする、家の中ではいちばん自由なスペースです。雑誌や本、キャンドルやポストカードなどの小さな雑貨が好きで。それを全部、手をのばせばすぐ届く場所に飾っています」。備え付けの大きなクローゼットはあるが、たくさんの"好き"に囲まれていると心が解放されるのだという。だから、あえてしまわずにいる。
「たとえばお皿は食事をするときに使うものというふうに決めてしまうのがもったいないと思ってしまうんです。きまりにとらわれる必要があるのかなって」。そう言われればたしかに本山さんを取り囲むものは、大きさや形や色がほとんど揃っていない。でもだからこそまた目に楽しくて幸福感に包まれるのだろう。
「それでも、『こちらを向かせたほうが落ち着くな』とか『この組み合わせがしっくりくる』というふうに、ゆる~くではありますが(笑)、私なりに腑に落ちるバランスを取りながら並べるようにしています」
新しいものや機能的なものの扱い方に迷ってしまう不器用なほうだから、気づけば古いものが増えていた。
「フランスの照明やハンガリーのテーブル、文机やカリモクの椅子などはいずれもかなり以前のものです。譲っていただいたものも少なくなくて、ていねいに繕いながら使い、いずれ誰かに継承することを想像すると、心も時間も凪ないでいきます」
仕事で帰宅が遅くなるので、家で過ごす時間は多くない。だからこそ 居心地のよさを損ないたくなくて、"気持ちいい"に忠実でいる。
「最近思うんです。つまるところ家、暮らしなんじゃないかって......」
もしもこの部屋が広かったら、本山さんは、たぶんここに住んでいなかっただろう。"好き"と身を寄せ合える、小さな暮らし。そこにしかない幸せがある。
本山聖子 ヘアサロンオーナー
国内、ミラノのヘアサロン勤務後、長野市内にヘアサロン『Kanade』を開く。2022年春、国内外で選んだ商品を取り扱うオンラインストア『semeno』をローンチ。
photo : Ayumi Yamamoto illustration : Shinji Abe (karera ) edit & text : Koba.A