BOOK 本と言葉。
陶作家・安藤雅信さんが選ぶ、中国茶・台湾茶がもっとおいしくなる読書案内。November 30, 2025

喫茶の歴史をひもとくことが茶藝を楽しむ道しるべになる。
日本における中国茶器の第一人者として知られる安藤雅信さん。彼が生み出す茶器は国内はもちろん中国・台湾で絶大な人気を誇る。そして茶人でもある安藤さんは、中国茶を楽しむなら「まずは歴史を知ること」と語る。「中国茶の淹れ方を指南する本はたくさんありますが、僕はまず、思想や歴史が学べる本をお薦めします。『中国茶文化』はお茶が誕生した古代中国から近世までを3人の中国人研究者が読み解いた共著。日本人の視点から書かれた『喫茶の歴史 茶薬同源をさぐる』は、著者の岩間眞知子さんがとても史実に詳しい方なので、中国と日本の茶の交流史などお茶の知識がひと通り網羅されています」
中国の喫茶文化が日本に伝わり、やがて江戸期に茶道が確立され、そのお点前の作法や概念が現在の中国茶藝に取り入れられている。歴史を知れば、そうした双方の〝文化の行き来〞が鮮明に見えてくる。
そして茶道から中国思想を垣間見たのが裏千家の実践者による『茶道と中国文化』。「茶道という総合芸術が、禅だけでなく儒教、道教など多種多様な思想や宗教の影響を受けて完成しているのも興味深いです」
『茶味的初相』は、安藤さんを中国茶の世界に導いた茶人・李曙韻さんの名著。
「台湾の茶藝は1970年代に台湾政府が開発した乾泡式工夫茶の作法が基盤となっていますが、李さんはそれに茶の湯の侘び寂びの精神と、茶席や茶会という概念を取り入れ、洗練されたスタイルを確立した先駆者。僕の作品が海外で注目されたのも、李さんが僕の片口を茶海として使ったことがきっかけでした。工夫茶の進化の記録としても貴重な一冊です」
最後はガラス作家の辻和美さんが今年上梓したエッセイ集、『わたしの中国茶』。
「〝茶縁〞と呼ぶ、お茶がきっかけで出会った友人はなぜか深く長い付き合いができる。この本では彼女が茶縁で結ばれた作家を紹介していて、実は僕もその一人。個人の体験に基づくお茶の楽しみ方が綴られた良書です」
ルーツを知るからより自由に味わえる。茶の最前線に身を置く安藤さんらしい選書だ。

『中国茶文化』 姚國坤、王在禮、程啓坤 著 近藤宗英 編 梓書院
茶の木の起源や古代中国の漢方の祖・神農に始まり、茶と茶具、茶の効能、茶と文学と、中国の喫茶文化を3人の研究者がひもといた一冊。1993年発行。「中国人が喫茶文化をどう捉えているかを知ることができる本。4000~5000年にわたる歴史が詳しく網羅されていて、中国茶のルーツを知るには最適な入門書」
『茶道と中国文化』 関根宗中 著 淡交社
「茶禅一味」の言葉の通り、茶の湯と禅の関係性はよく語られるけれど、それだけでなく儒教や道教、易、陰陽五行など多彩な中国思想が息づいており、これに気づくことが茶の湯の理解に通じる、と裏千家の実践者が説く。「実は茶の湯は多くの思想がブレンドされたハイブリッド文化だ、ということがわかる一冊です」
『わたしの中国茶』 辻 和美 著 BON BOOK
中国茶に魅了され、茶道具を作り始めたガラス作家・辻和美さんのお茶を巡る交流を綴った一冊。雲南の茶畑を訪ね、ガラスの茶器でお茶を点て、自ら茶人や作家を取材するなど、隅々まで愛と熱量が溢れる。「〝茶縁〞で結ばれた作家や生産者を自分の視点で紹介しているおもしろさ。こういう本はもっと出ていいと思う」
『茶味的初相』 李曙韻 著 北京時代華文書局
安藤さんと親交の深い茶人・李曙韻さんが提唱する現代中国茶の世界観を捉えた書籍。生徒へ向けた文章を基に編纂されており、お点前の解説など全編専門性の高い内容で読み応えがある。和訳版は安藤さんが監修を担当。「これは2013年発行の簡体字版ですが、写真が素晴らしいのでビジュアルだけでも楽しめます」
『喫茶の歴史 茶薬同源をさぐる』 岩間眞知子 著 大修館書店
茶の歴史を専門とする研究者による、茶の効能と喫茶の歴史を追った肉厚・濃厚な一冊。古代から近世まで、医薬書などをふんだんに引用しながら筆者の深い見識で中国と日本の喫茶文化を相関的に紹介していく。「お茶が薬であった2000年以上前からの歴史を説いた書。〝総合文化としてのお茶〞を理解できるはず」
選 安藤雅信陶作家
武蔵野美術大学彫刻学科卒業。現代美術家として活動し、1990年代から和洋を選ばない日常食器の作陶を始める。’98年、故郷の多治見市にギャラリー『ギャルリ百草』を開廊。茶道、中国茶藝に通じ、茶器も精力的に制作。中国・台湾に熱烈なファンを持つ。
photo : Shinsaku Kato styling : Maki Takeuchi text : Yoko Fujimori



























