TRAVEL あの町で。
心を解放する気仙沼線の景色。藤原季節さんの忘れられない車窓風景。June 30, 2025
&Premium140号(2025年8月号)「心を整える、日本の旅」より、俳優・藤原季節さんが旅する中で出合った忘れられない列車と車窓風景を特別にwebサイトでも紹介します。
宮城ー気仙沼線

南三陸に向かう道中で出合った、心を開放させてくれるシンプルな景色。
電車に乗るのが、昔から好きです。東京から地元の北海道へ帰省するときも、あえて鈍行列車を選んで2日間かけてのんびりと旅をしたりします。東京を離れると、まず気づくのが車内から広告が消えること。それにつれて、自分の思考も自然とほどけていくような感覚があります。冬場だと、座席の下のヒーターが心地よくて、うとうとと眠りに落ちるのも気持ちいい。そのうち、本を読んだり、日記を書いたり、手紙をしたためたり、と心も体も少しずつデトックスされていく好きな時間です。
気仙沼線に乗ったのも、車内の暖かな12月のこと。当時演じていた役のモデルとなった人物が南三陸の出身だったので、衣装を着て南三陸を目指しました。夜行バスで東京から仙台まで向かい、そこから電車を乗り継ぐ旅。頭をからっぽにして気仙沼線の車窓を眺めていると、ふと視界が大きく開けた瞬間がありました。そのとき、宮沢賢治の詩「青森挽歌」のなかにある、「りんごのなかをはしつてゐる」という一節が頭に浮かんだんです。何もない、ただ空と田んぼが広がる風景。その間を電車が走っている。このまま飛んでいくんじゃないかな、銀河鉄道みたいだなって思いました。シンプルな風景だけど、今も心に残っています。旅の途中で偶然出合う、何でもないけれど忘れがたい風景。そんな瞬間が心を開放させてくれるから、電車の旅が好きなのかもしれません。
気仙沼線
宮城県の前谷地駅から柳津駅までを結ぶJR東日本の路線。全列車が各駅停車で、1両編成のワンマン運転となっている。鉄道と並行して、BRT(バス高速運輸システム)も運行。

藤原季節 Kisetsu Fujiwara俳優
1993年生まれ。北海道出身。現在、Netflixにて『阿修羅のごとく』が配信中。近作にNHK特集ドラマ『まぐだら屋のマリア』など。著書に『めぐるきせつ』(ワニブックス)がある。
illustration : Shapre